ある日本人著者がPDFファイルで送ってきた「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」もまた悲惨な話だった。彼、葛西泰行は、調査を重ね、第二次大戦末期、ビルマ海岸部での日本兵による撤退作戦の顛末を詳細に書き上げた。この太陽の帝国の疲れ果てた落伍兵には、肉迫するイギリス軍の絶え間ない脅威だけでは悪夢と呼ばせるに不足だといわんばかりに、ついに運命は彼等をしてワニが横行する河を越え自由への脱出を試みさせることになる。
ここでまた私は、今いるこの悦楽の世界には事実、人食いワニも生息していることに気づき、今まで「敵」と思い続けてきた兵士たちにも、親しみ深い人間性があったことを認識した。先入観を突き崩されることは、反転した世界観を認める機会になる。ここの文脈では「敵」は連合軍をさすのだ。この反転は、日本人著者の明瞭で冷静な英語の文体と、どのような民族、どのような帝国に属するかの如何を問わず、人間に取って古来、より原初的な敵であった爬虫類の姿に託されたドラマチックな構成によって遂げられている。
発表日:2007年4月19日
評者:ノーウィック・グレイ氏 (カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州ビクトリア市)
オルターナティブ・カルチャー・マガジン紙上「失われた楽園、見いだす楽園」より抜粋。全文を読む。
前頁 次頁
ホーム