第二次大戦中のビルマ戦線については、まだ多くの西洋諸国で、それが本来値すべきほどの関心が払われていない。欧州や北米から遠く隔てられている上、何がどこでどのように展開されたのかしばしば理解が難しくなるほど、戦場となった地勢は複雑だ。また、戦闘の多くが当時英帝国の下にあったインド諸兵によって行われたため、彼等の戦功について考慮に入れるほどの興味も重要性も見いだせなかったというのが正直なところだろう。次いで、英帝国や日本軍への関心も薄く、その間の出来事への検証も不完全だ。大戦中の兵士を父に持つ日本人著者、葛西泰行は、この大きな歴史から小さな一部を切り取って描き出すことを選んだ。ビルマ沿岸の島からの撤退作戦に関するものである。日本軍は既に壊滅状態で、兵隊は戦死した友の思い出と遺骨を抱え、しかるべき名誉ある埋葬のため遺族に届けようと、のろのろと退却点への道をたどり始めていた。多くは熱帯性風土病に苦しんでおり、士気の低下はここに極まる。その一方、指令部と通信途絶した部隊は、敗北を受け入れることを拒絶して、見込みのなくなった戦いに固執する。味方の航空隊はほどんど一掃されてしまい、上空を行きかうのは、必ずといっていいほど現地遠征の米軍機だ。
ここの場合、ワニというさらに恐ろしい危険が待ちかまえていた。公式記録、少なくとも逸話によれば、脱出のためマングローブ突破を試みた日本兵の多くが遊泳中、徒渉中にこれらうろこをまとった恐怖の好餌となったという。事実かどうか定かではないが、かの国でワニが今も現実的脅威であることは確かだ。いずれにせよ、これがこの簡潔で概して面白い小説の芯になっている。細かな背景描写はわずかしかなく、極めてアメリカ的な英語だが、文体は率直で、ほどよいペースで物語を推進させる。これが日本兵の真の姿だということは信じていいだろう。彼等の関心事や物の考え方は本物だ。この本は第二次大戦物、またより広く歴史物愛好者全般の関心を誘うだろう。映像化にはあつらえ向きの仕上がりゆえ、ある日テレビ、映画化されて私たちの前に姿を現しても、驚きはしない。
発表日:2007年4月23日
評者:ジョン・ウォルシュ博士 (タイ、バンコク市)
於:ブックプレジャース
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