ふたりの中心人物、包囲された守備隊救出の命を受けた角美久少尉と、その不運な守備隊の一員、春日稔上等兵の物語を巧みに交錯させることによって、作者は軍事作戦のいきさつを活写し、戦時の興奮状態をよみがえらせる。この場合、マングローブの龍であるワニに襲われる恐怖がそのひとつだ。
鮮やかな描写と比喩、すきのない人物設定、テンポの早い展開によって、すべての読者がこの活気に満ちた面白い戦争物語に引き込まれるだろう。今までほどんど見たことのない話だが、恐ろしい戦争の惨害とそれが人間にもたらすもの、そして名状しがたく驚異に満ちた大自然の作用にすべての光が当てられている。
読む価値のある秀でた作りの物語である。