傑作たるべき定め

「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は第二次大戦中の事件に触発された小説であり、実話をよりどころとしている。ビルマ沖、ラムリー島に配備された日本陸軍二十八軍の守備隊が被ったワニによる凄惨な人身事故を扱った感動的フィクションだ。島に駐屯中、春日稔は塩水クリークから立ちのぼる悪臭を感じる。地元の村人によればそれは、ミンガン・クリークに生息する人食いワニの息がもたらす死のにおいらしい。

激戦を経、島の東海岸へ追いやられた大隊は、クリークを越える撤退行動を余儀なくされる。決行直前、同じ腐敗臭をかぎとった春日は、上官に危険を告げる。だが彼を無視した軍曹は、クリークを渡るよう兵に命じるのだった。

ラムリー島守備隊生存者救出の使命を帯び、ミンガン・クリークに到着した角美久少尉は、純然たる恐怖に直面する。

葛西は軍人を動かす力について非凡な洞察力を示す。ある者は恐れや臆病心に駆りたてられ、またある者は自尊心、愛国心、英雄主義への自己陶酔、あるいは勇気によって突き動かされる。だがすべてを支えるのは、自己保存の法則、生き残りへの渇望だ。

この本は英語で書かれているが、葛西の堂々とした精彩ある筆致は、映像を見るようで、ビルマの舞台を忠実に再現しながら、日本の潜在的文化まで理解させる力がある。

「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は第二次大戦南方戦線、またその後の紛争でのゲリラ戦に関する作品の傑作たるべく定められている。


発表日:2007年5月1日
評者:リチャード・R・ブレーク氏 (アメリカ合衆国、カリフォルニア州サンリーンドロ市)
於:リーダー・ビューズ

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