物語は十分な調査の上になり立っており、真正の時間、部隊、作戦行動が記載されている。作者は、祖国の歴史上最も困難な時代にまつわるこのよく知られた寓話から虚実を判別してみろ、と読者に挑んでいるかのようだ。時々、叙述は容赦なく写実的になる。「富田の言葉が終わらぬ内に、迫撃砲弾が後方の壕で炸裂した。一瞬にして真白になる視界の中、ふたつにちぎれた兵隊の体が宙に舞うのが、かすかに捕らえられた。春日の聴覚は失われた。すべては無声映画を見るようで、奇妙にも現実感に乏しい。・・・剃刀のように鋭利な鉄片が頭上を飛びかう。重い甲弾薬箱が壕の端まで転がっていくのが見え、・・・弾薬手の一人が苦悶に表情をゆがめてうずくまっている。腹を引き裂かれ、腸が飛び出している。硝煙に混じり血の臭いがした」
この残酷さとバランスを取るのは、美しい自然描写だ。「周りは一面のマングローブである。木という木は皆、蛸の足のような根によって支えられ、鬱蒼とした枝葉を四方に突き出していた。湿度は高く蒸すようで、空気は潮と泥の匂いに満ちていた。・・・マングローブがとぎれると、辺りは丈の低い草でおおわれた湿原に変わった。乾期にもかかわらず緑は濃く、クリークを満たす水は静かに流れ、さながら庭園のようであった」明らかにそこはすべての侵入者を寄せつけない原始の自然、爬虫類の地だ。
無秩序に必死の退却を続ける友軍に、ビルマ人に変装して接触を試みる救援隊のサスペンスが、うまく構成されている。飲み水を入れた竹を浮きとして使う将軍時代の技術から、物売りの果物を勝手に取った部下を公然としかりつける高潔の将校、救出を拒む狂気の士官学校卒業生まで、日本の武人のあらゆる側面がうかがえる。
すべての章で副題をアイロニーとして使いながら、作者は興味深く吸引力のある物語を書いている。