ページを繰るのがもどかしい

角美久少尉は、救出指令を受けラムリー島に向かう。彼はそこが最も危険な地帯のひとつで、生還の見込みは薄いことを知っている。生けにえにされるような気分だ。唯一彼を進ませるのは、故郷で帰りを待つ恋人の存在だ。

春日稔上等兵は、ミンガン・クリークから立ちのぼる悪臭を不思議に思う。それは人食い鰐のにおいだと、ある村の長から教わるが、春日にはほどんど信じられない。では、なぜ村人たちは姿を消すのか。敵が攻めてきた今、いぶかり続ける時間はなく、春日には何をすべきかわかっている。皆そのクリークを渡らなければならないのだ。

「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」はスケールが大きく、気安く読める物語ではない。特に我々ヨーロッパ人には日本名がややこしい。しかし、彼等兵士たちの人生、そして彼等が巻き込まれたこの劇的事件についてより知りたいと思うなら、誰しも読むべき感動的な本だ。葛西泰行は第二次大戦中の実話に根差した物語を書き上げた。そしてそれがこの話をより悲愴にしているとわかっているようだ。私たちは、兵士が何を経験しなければならなかったのか知っている、あるいは少なくとも想像できると思っている。しかし「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」を読めば、彼等が味わった責苦の精神面がより明らかになる。戦争が人間の心身に何をもたらすかよくわかるのだ。この本は今まで知らなかったことを教えてくれる。葛西泰行はページを繰るのがもどかしいほど面白い本を書いた。地獄に置かれた兵隊の生き残りへの試練がどのようなものか、語りかける作品だ。


発表日:2007年6月3日
評者:アニック氏 (ベルギー)
於:ユーロ・レビューズ

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