悲劇とヒロイズム

語り継ぐべき物語がある。第二次大戦中、太平洋の戦場で闘った両軍のごく普通の兵士たちが発揮した勇壮さ、そして彼等が度々直面した恐怖に関するものだ。多くが双方から顧みられないままになっている。日本軍のラムリー島撤退中に起こった事件を扱ったこの物語は、そのひとつだ。

自分が何を見、周りで何が起こるのか、理解することも、思い描くこともできない戦争に駆り出されたごく普通の兵士の目から見た世界はどんなだろうか。才能ある著者、葛西泰行は、人間性への理解力をもって、死が確定した時、人はどうするのか教えてくれるこの物語を書き上げた。

これは似た状況に置かれたすべての集団にあてはめることのできる話だ。防戦と退却を同時に命じることによってもたらされた混乱の中、角美久少尉とその部下は、ラムリー島からできるだけ多くの兵隊を救出する任務を与えられる。手近に使える船はなく、角は島への輸送船を都合するところから始めなければならない。支給された地図、武器、食料は不十分だ。それでもどうにか任務をこなす手立てを見つけていく。

合流地点に向かう撤退部隊、救出隊の両方が、彼等を待ち受ける危険に気づいていない。この読者の関心を誘うであろう小説には、はっきりとした緊張感がある。歴史は整理されて初めて見えるものだ。その過程で見える戦争の恐怖を、読者は改めて理解するだろう。

面白い作品なので、すべての小説ファンに喜んで薦めたい。人生には想像を越える忌わしい体験があるという事実が、歴史物、ホラー、サスペンスの要素とブレンドされている。目を開かせる書物であり、読み終えた今、この戦争の別の側面から、そしてそれを闘った男たちから何かを学べたといえる。


発表日:2007年6月11日
評者:アン・K・エドワーズ氏 (アメリカ合衆国、ペンシルベニア州)
於:ミステリーフィクション・ネット

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