ワニが無性にクール

最近、事実をベースにしたらしい殺人ワニのDVD映画「プライミーバル」を観て一晩無駄にしてしまった。その後、これまた事実をベースにしたらしい殺人ワニの小説「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」を読んで一日を終えた。

「プライミーバル」はひどかったが、「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」はよかった。

葛西泰行の超スリムな本(140ページもない)は、第二次大戦末期のビルマで日本軍の大隊がワニの群がる水に直面した時、実際あったレスキュー・ミッションを小説化したものだ。千名の歩兵がその獣の強力な牙にかかって死んだといわれるあの伝説に触れている。

ビルマの島、ラムリーに到着した後、ある兵隊が吐き気を催すにおいに気づく。現地人のいうことには、「それは間違いなく鰐の呼気である。人を食らった鰐が吐き出す息は、特に臭い」らしい。話の終わりまでに、これが何なのか思い知らされていく。

触れ込みと違って、これは第一に戦争物だ。込み入った戦略とか重すぎる感情表現が多い。戦記としては正統的なのだろうが、この面では情味に欠けると感じた。読者側の感情移入が不足しているせいかも知れないが、角、雪子、春日といったキャラクターは不明確で、自分にとっては整理の難しい取り替え可能な名前でしかなかった。

しかしアドベンチャーの部分は別物だ。ワニが出るたび、実際ここかしこで襲ってくるのだが、「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は無性にクールになるのだ。葛西は第二のピーター・ベンチレー(「ジョーズ」の作者)だ、とまでいうつもりはないが、少なくともこれは次に誰かが食われるまで読んでみたいという気にさせる本だ。

葛西が母国語でない言語で書いていることは特筆するべきだ。数カ所のおかしな文章を除けば、読者にはそれがわからないだろう。彼の英語理解力は、最近読んだ二、三のくだらない本を書いた小説家もどきのアメリカ人より優れている。


発表日:2007年6月14日
評者:ロッド・ロット氏 (アメリカ合衆国、オクラホマ州エドモンド市)
於:ブックガズム

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