ビルマ本土に駐留する九十七式軽装甲車小隊の隊長、角美久少尉は、上官から任務を割り当てられる。ラムリー島に船で渡り、第百二十一連隊の生存者を避難させる任務だ。部隊を組織し任務に取りかかった角は、自らを使命にプライドを持つ有能な士官だと証明していく。手始めに、日本帝国陸軍に協力するビルマ人兵士に依頼し、部下を現地漁民に変装させる。
もう一方の主人公は、そのラムリー島に取り残され包囲された連隊の機関銃手、春日稔上等兵だ。物語はその奮戦ぶりを追い、春日は戦友が英印軍部隊、航空機に殺されていく中、戦闘、退却しながら島中渡り歩く。ある時彼は、ラムリー島と本土の間を流れるミンガン・クリークに邪悪な何かが生息しているのに気づく。クリークと周辺のマングローブにはイリエワニが群居しているのだ。そしてそのワニは、水に近寄りすぎた単独の漁師や村人を時々さらうことで知られている。
角が任務遂行に躍起になり、救い出すべき百二十一連隊生存者を捜し回っている間、春日とその仲間は、それ自体危険なミンガン・クリーク夜間渡河を企てるため、イギリス軍斥候隊や砲艦から逃げ回らなければならなかった。彼等は敵の弾幕をくぐり抜け、クリークにたどり着く。だが不運な日本兵が脱出を試みたその場所には、彼等を待ち受けるものが潜んでいた。
物語のスタイルは新鮮で清々しい。非常に日本的な趣がある。葛西の描く人物はリアルで、本物の日本兵が当時行動したであろう通りに行動する。彼は百二十一連隊やラムリー戦に関する実際の報告書を元にこの物語を書いた。それらには連隊がラムリーからビルマ本土に撤退する際こうむった恐ろしいほどの命の犠牲について記載されている。また本の冒頭で葛西は、千名近い日本兵がクリーク、マングローブを跋扈するワニの牙にかかって果てたことに言及している。この本はその不気味さを醸していて、血なまぐささ抜きで十分刺激的だった。兵士の視点からよく書けており、彼等がその暗く不吉なクリークで一体何が起きているのか理解した時の恐怖はリアルだ。
葛西氏がこのスケールのフィクションをもっと書かないか、と個人的に期待している。