物語はふたつの視点から進められる。応召の機関銃銃手、春日稔上等兵はその島から、敵の猛爆、猛攻から逃れようとしている。一方、歩兵の骨折り仕事いやさに将校になっただけのインテリ、角美久少尉は、その島から友軍を撤退させるという実行しがたい自殺指令のようなレスキュー・ミッションを割り当てられる。両者とも予想だにしていないことは、彼等を待ち受ける最も恐ろしいものが、銃砲火や爆弾ではなく人食いワニだということだ。
武力闘争のさなか真の恐怖は人間ではなく自然の獣にあるというこの一見ばかばかしい考え方によって、この話は興味深いものになっている。微妙な巧緻に彩られた本だ。表面上単純な話は、階級闘争、日本文化、人命の価値、さらに人間対自然という伝統的テーマにまで触れる。物語は短くすぐ終わるだろうが、その後読者をしばらく考えさせるものだ。
第二次大戦中の日本人の視点から書かれた英語の小説だという点でも、この「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は注目に値する。西洋の読者は、英印軍と闘ったこの日本軍の経緯を新たな角度から見ることになるだろう。