恐怖の二重構造

第二次大戦も終わりに向かうころに起こったイリエワニ襲撃事件に材を求めたこのセミ・フィクションは、土曜の夜のSFチャンネルで放映されるモンスター映画に日本版「バンド・オブ・ブラザーズ」をかけ合わせたようなものだ。一兵卒、春日稔の視点で語られる恐怖は、連合軍の猛攻を避けることとマングローブの湿地でワニの牙をかわすことの二重構造になっている。末端の兵隊には実感できる恐怖だ。だが部隊指揮官の目には、馬鹿げた幻としてしか映っていない。実際の襲撃に遭遇するまでは・・・

最初の襲撃はこの短い小説の半ばでようやく始まる。これはもっと早くするべきだっただろう。終盤明らかになる春日の「龍」の夢とともに、話のほとんどは戦争物として展開する。それ自体は必ずしも悪くないが、連続した緊張感とよどみのないペースを求める読者にとっては、この第二次大戦物は受けるものではないかも知れない。

しかしながら、映像的に書かれているので、適当なスタジオが現れて正しくことを運ぶなら、「ゴーズト・アンド・ダークネス」やティム・レボンの「ホワイト」といった種類の興味をそそる映画の原案になる可能性がある。


発表日:2007年11月14日
評者:デヴィッド・シムズ氏 (アメリカ合衆国、ネヴァダ州ラスヴェガス市)
於:ヘルノーツ

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