
図書館の戦場ホラー・コーナーに至当
この「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は第二次大戦中の話だ。ビルマ近くのラムリー島で、圧倒的優勢を誇る英軍に望みのない闘いを挑む日本兵の物語だ。救出指令を受けた別働隊が派遣され、ようやく撤退可能になった時、脱出路は兵士たちを人影もまばらな湿地帯へ、そしてついにはワニの充満する河へといざなう。日本側観点で語られたこの「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は、敵対者もまた望みや恐れを持つ人間なのだと読者に気づかせる。これら兵士たちは無個性で画一的な敵ではない。故郷に家族を残し、生き残りをかけて闘うごく普通の若者なのだ。残念ながら、作者のドライでジャーナリスティックなスタイルによって、登場人物がいささか平板な印象を与えるものになっていて、それが読者側の関連づけを難しくしてしまっている。葛西の作る会話やアクションは、ほとんど新聞記事のようだ。作者はワニに関する記述でよい仕事をしており、それが終盤の数章をいきいきとさせているが、分量が少なく遅きに失した感がある。ワニのことがなければ、作品に気が入らなかったのではと思える。本来ならこの物語は、ホラーというより、戦争の絶望的苦闘を描いた作品と分類されるべきものだ。しかしワニ襲撃に重きを置いた切り口には、恐怖の層が加えられているので、ホラーの読者も楽しめるだろう。「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は、戦場ホラー・コーナーを持つすべての図書館にとって面白い追加になりそうだ。
発表日:2007年10月15日
評者:ブレット・ジョーダン氏 (アメリカ合衆国、テキサス州ヴィドール市)
於:モンスター・ライブラリアン
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