
ホラー小説でもある戦記文学
映画「硫黄島からの手紙」の人気によって変わるかもしれないが、第二次大戦中の日本兵の体験を英語で記した本は少ない。この小説「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は、熱帯の湿地を撤退中、イリエワニによって全滅させられた日本軍部隊に関する逸話に基づいている。話そのものの真偽は疑わしいが、十分信憑性を感じさせるコンセプトだ。大移動するヌーを水中に引きずり込むワニの群れをテレビ番組「ディスカバリー・チャンネル」で見れば、誰でもそう思うだろう。大戦中の日本軍砲兵を父に持つ作者がその個人的意見、体験を物語に組み込んだのか、作品は十分な典拠に支えられているようだ。この小説は単に日本人の視点から書かれているだけではなく、日本人そのものによって書かれている。ゆえにユニークな文化的要素が筋、背景、特に夢のシーンに顕著に含まれている。重機関銃の銃手、そして兵卒に課せられた厳しい労役、しごきから逃れるために将校になった若者を中心とする登場人物は、いずれもうまく描写されており、共感しやすい。英文は時にぎこちなく、ペース配分の悪さも散見されるが、それほど重要ではない。戦記物でありながら、「ジョーズ」風ホラー小説でもあるこの「ドラゴン・オブ・ザ・マングローブス」は、十分一読に値する。
発表日:2007年3月24日
評者:ヒギンズ氏(アメリカ合衆国、ネブラスカ州オマハ市)
於:アマゾン・コム
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