公園を抜け、帰宅を急ぐ車で溢れている車道横の自転車道を
二頭と共にゆっくりと海岸公園に向かう。
ももちゃんの看病で殆ど外出することがなくなった父親と共
に一週間ぶりに散歩に出たベンジャミンと蘭が力一杯リードを
牽いて先を急ぐ。
身体に当たる風がいつの間にか優しくなっていた。いつもは
途中からよたよたと緩慢な動作で暑さの中の散歩をするベンジャ
ミンが、今夜は颯爽と風を切って走る。信号を渡り総合体育館
と汚水処理場の間の道路を抜けると、急に目の前が広くなる。
五十メートルほどの川幅一杯に水がたたえられ、細波が月明
かりの中でキラキラと輝いている。上空に浮かんでいる雲はも
う秋のものであった。川に沿って二百メートル、河口に架かる
橋を渡るともう海岸公園の木々の黒いシルエットが見え始める。
東に向きを変え、三十度の高さから煌々と地上を照らしている
十三夜の月に向かって自転車を進める。
頬に当たる海風はひんやりと心地よく、雲の間から小さな星
たちが顔を覗かせ始めている。夜釣りの親子連れの間を抜けて
堤防の先端にたどり着く。
魔法瓶の水をおいしそうに飲み干したベンジャミンと蘭が草
の中に入って行く。堤防に腰掛け北の空と海をぼんやりと眺め
る。
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右目の端に光が走る。顔をねじ曲げて東の空を見上げる。殆
ど満月に近い月が白い光を地上に投げかけているその直ぐ下で、
鈍い光が二度三度と走る。
稲妻であった。北の空には低い雲が横に長く浮かんでいた。
西に向かってゆっくりと流れているその雲の頭から絹に包まれ
たような光が走る、頭から尻尾に向かって。
五秒か十秒に一度、流れている雲のシルエットをゆっくりと
浮かび上がらせながら光が走る。その雲が丁度切れるあたりで、
今度は目が眩むような青い光が別の雲を浮かび上がらせる。
天空の三ヶ所で光が遊んでいる。
閃光の中に遠くの島影が浮かび、細波が怪しく揺れる。防波
堤に座っている父親の両脇に、いつの間にかベンジャミンと蘭
がぴったりとくっついて座っている。
風が静かに通り過ぎて行く。暑かった夏の日が終わろうとして
いるのであろう。小さな星たちが数を増した空を見上げる。
短かった暑い夏の日、この夏の季節に巡り会い、訣れていった
犬たちのことを考える。あるものはたった一度だけの出逢いで
あり、またあるものは何度かの出逢いのあと、静に旅立っていっ
た………
天空にきらめく荘厳な光の葬列を飽きることもなく子供たちと
共に眺める。
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