蘭ちゃんのいびき・・・



6月23日
 連日の豪雨のため五色台の野生児たちへの給餌が遅れ遅れに 
なっていることが気になっているのであろう、深夜になっても
目が冴えて眠りの水車が心地よく回ってくれない。私の左側で
腕を枕に眠っている蘭ちゃんが時折軽い鼾をかく。

 窓の外はごうごうという音と共に、大粒の雨が落ちてきてい
る。曲がらぬ右脚をピンと伸ばしてすやすやと眠っている蘭ち
ゃん・・・殆ど鼾などかいたことがない蘭ちゃんが鼾をかいて
いる、どうしたことであろうか。ぴったりと背中を私の脇腹に
くっつけ何一つ警戒することもなく、雨の音に目覚めることさ
えもなく深い眠りに落ちている。

 ベンジャミンは身体の割に全てにわたっておとなしく、眠っ
ているときも殆ど寝息さえ立てない。深夜ふと目を覚ましてベ
ンジャミンの寝息を窺い、余りの静かさに思わず揺り起こすこ
とも度々であった。今夜も長毛のため暑いのであろう、ベッド
サイドの涼しい場所を選んで静かに眠っている。

 どう表現したらいいのであろう、蘭ちゃんのこの鼾! もし
この鼾が人間の発しているものであったら、恐らく跳び起きて
頭の一つもペチンというところなのであろう。しかし今夜の蘭
ちゃんの鼾は、けっして可愛いものではないのだが、はっと目
を覚まして「何か異変が・・・」などと心臓を締め付けながら
揺り起こすときと比べれば、可愛く安心感を与えてくれるもの
であった。
 どうしても眠りに就くことができないまま、階下のコンピュー
ターを置いてある部屋に移り、なすこともなく画面を眺めなが
ら時の移るのをただじっと待つ。やっと睡魔の登場。

 二階のベッドに移るため部屋を出たところ、長椅子の上で丸
まって眠っている蘭ちゃんの姿が目に入る。甘えん坊であるこ
とは自他共に認めてはいるが、いじらしささえ覚える。
 私の起きた後、音も立てずに階下の隣の部屋に降りてきてい
たのである。


 眠そうな目元の蘭ちゃんをしっかりと抱きしめ階段を登りベッ
ドに入る。窓の外は相変わらず激しい雨であった。先日五色台
で拾ってきたまだ名前も付けていない仔犬が、ちびちゃんと共
にすやすやと眠っている姿が頭の中でぐるぐると回り、眠りの
水車の回転と重なった。