長さ二十五a強の金属製の尿管カテーテルを、見えない尿道
口を捜しながら膀胱まで挿入する! 腟口の下部に尿道口は存
在しているはずである。
外科手術用の滅菌手袋を左手に入れ、右手にはカテーテル!
先ずカテーテルの滑りを良くし細菌感染を防ぐためテラマイシ
ンをカテーテル先端に塗布。
左手中指を腟口に滑り込ませる。第一関節と第二関節の丁度
中間ぐらいのところが腟口である。中指の先端で尿道口を探る。
それらしき感触は伝わってこない!
少々窮屈な腟口からさらに指を奥に滑らせる。微かに中指の
先にコリッとした感触が伝わる。しかし、それが尿道口である
確証はない。
中指の腹に沿ってカテーテルを滑らせる。多分この感触の所
であろうと思われる場所にカテーテルの先端を導き、恐る恐る
右手でカテーテルを押す。鈍い感触と共にカテーテルが滑り込
む。
カテーテルの先端が二十aほど入ったところで、淡黄色の尿が
排出され始める。血液の混入もなくスムーズな排尿が続く。
下腹部を揉むようにして押しながら排尿を介助する。
「獣医の先生でもカテーテルの挿入が難しいという人がいま
すから……」
そう言って脅されていたことが嘘のように何の抵抗もなく挿
管出来たのであった。ももちゃんの顔が心なしか和んでいるよ
うに見える。血管注射のときでもそういえばそうであった。
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獣医の先生が注射筒を持って前肢を握っただけで、全身を硬
直させ何かに耐えているような態度を示すわが家のワンちゃん
たちも、お父さん先生が、何度も失敗をしながら血管をようや
く探り当て静脈注射をするときは、どこにも力を入れずおとな
しくされるがままになっているのが常であった。
「これで、ももちゃんが尿を溜めて苦しい思いをしなくてす
む」そう思った次の瞬間、一昨日から痛んでいた下腹部に鈍く
重い痛みが走る。
痛みは背中にまわってきている。左腎臓の下部が絶え間のな
い鈍痛とだるさに襲われ始める。殆ど立ち上がることが出来な
いほどの痛みが続く。どうやら左腎臓の中心部に確認されてい
た結石が移動し始めているようである。
「今入院治療は出来ない、ももちゃんの通院が終わるまでは
無理だ!」恐らくモルヒネでしか止めることは出来ないであろ
う痛みに果たして耐えることが出来るであろうか? 痛みを極
限まで我慢することが、持病の心臓に与える影響は?
次々に不安が頭を横切る。
この時のために用意していた強力な痛み止めの錠剤を喉の奥
に流し込みながら気持ちよさそうに目を閉じているももちゃん
を眺める。「よーし、これで大丈夫、頑張るぞ! ももちゃん
も頑張れ!」
あと一ヶ月近くはお父さん先生が頑張らなければならないの
だろう……痛みが少しずつ遠のいていくようだ。
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