訃 報



8月9日 火曜日 薄曇り
 いつもの時間より早めに家を出て動物病院へ向かう。気圧が
不安定なためであろう、風が強い一日であった。午後六時半過
ぎ、病院に着く。いつもは患蓄でごった返している病院が、今
日は空いていた。

 念入りにももちゃんの診察をして貰い、左後肢の静脈への注
射で今日の診察と治療は終わった。支払いを済ませ、目線の会っ
た先生との会話が始まる。

 「おちびちゃんの顔を見ませんが、元気でしょうか?」

 「亡くなりましたよ! 日曜日の夜に……」

 「えっ…………」

 「夜になって急に苦しみ始めたらしく、胸水を抜いたんです
  が……、そのまま眠るように亡くなりました」

 「じゃぁ、最後は苦しまずにすんだんですね……」

 「ええ……」

 「あの朝逢ったときは元気に外の景色を見ていたのに……」

 「そうですか、でも大分弱ってましたからねぇ……」
 「そうですねぇ、名前を呼ぶとじっと見つめてくれていたん
  ですが……あれがお別れだったんですねぇ……」

 「近所の犬ですから、フィラリアの予防をするように注意し
  ていたんですが…残念です…………強制的にはできません
  からねぇ」

 「ええ……かわいい子だったのに……」

 「酸素マスクを掛けて努力はしてみたんですが、還ってきま
  せんでした……」

 「でも、苦しまなかっただけ良かったかも……ご苦労様でし
  た先生!」

 哀しい会話であった。愛くるしい顔でじっと見つめてくれた
おちびちゃんが、わずか十時間後に旅立ってしまっていたので
ある。

「永くは保たないだろう」そう思ってはいた。そうは思っても、
どこかで「奇跡的に回復してくれるのでは…」と強く願ってい
た自分もいた。

 腹水で膨れ上がったお腹の感触と、きちんとお座りをして見
返してくれた小さな顔、そして障害のある左後肢を脇腹につけ
た三本肢で歩いていた姿が、瞼の裏にはっきりと残っている……

さようなら、おちびちゃん…………また逢おう!