いつもの時間より早めに家を出て動物病院へ向かう。気圧が
不安定なためであろう、風が強い一日であった。午後六時半過
ぎ、病院に着く。いつもは患蓄でごった返している病院が、今
日は空いていた。
念入りにももちゃんの診察をして貰い、左後肢の静脈への注
射で今日の診察と治療は終わった。支払いを済ませ、目線の会っ
た先生との会話が始まる。
「おちびちゃんの顔を見ませんが、元気でしょうか?」
「亡くなりましたよ! 日曜日の夜に……」
「えっ…………」
「夜になって急に苦しみ始めたらしく、胸水を抜いたんです
が……、そのまま眠るように亡くなりました」
「じゃぁ、最後は苦しまずにすんだんですね……」
「ええ……」
「あの朝逢ったときは元気に外の景色を見ていたのに……」
「そうですか、でも大分弱ってましたからねぇ……」
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「そうですねぇ、名前を呼ぶとじっと見つめてくれていたん
ですが……あれがお別れだったんですねぇ……」
「近所の犬ですから、フィラリアの予防をするように注意し
ていたんですが…残念です…………強制的にはできません
からねぇ」
「ええ……かわいい子だったのに……」
「酸素マスクを掛けて努力はしてみたんですが、還ってきま
せんでした……」
「でも、苦しまなかっただけ良かったかも……ご苦労様でし
た先生!」
哀しい会話であった。愛くるしい顔でじっと見つめてくれた
おちびちゃんが、わずか十時間後に旅立ってしまっていたので
ある。
「永くは保たないだろう」そう思ってはいた。そうは思っても、
どこかで「奇跡的に回復してくれるのでは…」と強く願ってい
た自分もいた。
腹水で膨れ上がったお腹の感触と、きちんとお座りをして見
返してくれた小さな顔、そして障害のある左後肢を脇腹につけ
た三本肢で歩いていた姿が、瞼の裏にはっきりと残っている……
さようなら、おちびちゃん…………また逢おう!
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