ある日曜日



8月28日
 公園をゆっくりと徘徊するももちゃんの姿を目で追いかける。
妻の寝室の窓を開けると目の前に公園の緑が広がる。窓越しに
公園を眺めているのは父親である私とベンジャミン、そして負
けん気の一番強くて体格の一番小さな蘭ちゃんの一人と二頭で
あった。

 ベンジャミンが身体を擦り寄せてきて鼻声を出して自分も散
歩に出掛けたいと訴えてくる。ベンジャミンと私の間に割り込
んできて父親の所有権をしっかりと態度で示す蘭ちゃんが、
しょっぱい舌で顔を舐め回す。

 妻を従えたももちゃんがヨロヨロと蹌踉めきながら公園の樹々
の間を匂いを嗅いで歩いている。左後肢はかなりしっかりして
いるようだが、右後肢は殆ど役にたっていない。身体が右に傾
いたまま崩れそうになっている。

 腰椎からの神経が断裂した状態が続いているのであろう、右
後肢の甲が上に向いていない。身体を支えている左後肢の甲も
ときどき地面を向いたままである。

 潅木の横でももちゃんが中腰になる。排尿だろうか? 妻が
手を横に振って駄目の合図を送ってきた。五、六メートルの歩
行が精一杯なのであろう……。勝手口の方を見つめていたもも
ちゃんが、窓から顔を出して眺めている父親とベンジャミンた
ちを見つけたようだ。身体を右に傾けながら家に向かって帰っ
てくる。

 「もう一回行っておいで!」

 父親の声に従って近くの木の方にももちゃんが向かう。また
中腰になる。
 「疲れてるようだから連れて帰って!」

 「いま、オシッコの最中……!」

 尻尾を持ち上げて排尿の手助けをしていた妻の声が帰ってき
た。息を弾ませてももちゃんが勝手口まで帰ってくる。ベンジャ
ミンと蘭ちゃんが窓から離れて台所に急ぐ。散歩のあとの牛乳
のお相伴のためである。

 部屋に帰ってきたももちゃんは荒い息を吐きながらじっと父
親の目を見つめている。導尿による感染症の心配から解放され
たことと、膀胱神経が回復してきていることが確認できたこと
によって最低限度の運動能力の回復予測が立てられることとで
満面に笑みをたたえて身体を撫で回している父親の目を甘えた
顔で見つめている。

 クーラーがガンガン回っている部屋の温度が下がろうとしな
い。窓の外の庭では、植木の周りを掘り返した急造の窪みの中
で大五郎とちびそしてはちの三頭が気怠そうに腹這いになって
いる。埋めても埋めても掘り返される椿の木の下の窪地が、庭
の三頭の格好の避暑地なのであろう。

 つい最近までうるさく鳴いていたセミの声も殆ど聞こえなく
なっている。杏の木に雀がとまり大五郎たちの食餌のおこぼれ
を狙っている。まるまると太った雀が軽やかに庭に置いたステ
ンレスの食餌皿の方に降りていった。

大五郎たちは動こうともしない。
足下でももちゃんが寝息を立て始める。