公園をゆっくりと徘徊するももちゃんの姿を目で追いかける。
妻の寝室の窓を開けると目の前に公園の緑が広がる。窓越しに
公園を眺めているのは父親である私とベンジャミン、そして負
けん気の一番強くて体格の一番小さな蘭ちゃんの一人と二頭で
あった。
ベンジャミンが身体を擦り寄せてきて鼻声を出して自分も散
歩に出掛けたいと訴えてくる。ベンジャミンと私の間に割り込
んできて父親の所有権をしっかりと態度で示す蘭ちゃんが、
しょっぱい舌で顔を舐め回す。
妻を従えたももちゃんがヨロヨロと蹌踉めきながら公園の樹々
の間を匂いを嗅いで歩いている。左後肢はかなりしっかりして
いるようだが、右後肢は殆ど役にたっていない。身体が右に傾
いたまま崩れそうになっている。
腰椎からの神経が断裂した状態が続いているのであろう、右
後肢の甲が上に向いていない。身体を支えている左後肢の甲も
ときどき地面を向いたままである。
潅木の横でももちゃんが中腰になる。排尿だろうか? 妻が
手を横に振って駄目の合図を送ってきた。五、六メートルの歩
行が精一杯なのであろう……。勝手口の方を見つめていたもも
ちゃんが、窓から顔を出して眺めている父親とベンジャミンた
ちを見つけたようだ。身体を右に傾けながら家に向かって帰っ
てくる。
「もう一回行っておいで!」
父親の声に従って近くの木の方にももちゃんが向かう。また
中腰になる。
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「疲れてるようだから連れて帰って!」
「いま、オシッコの最中……!」
尻尾を持ち上げて排尿の手助けをしていた妻の声が帰ってき
た。息を弾ませてももちゃんが勝手口まで帰ってくる。ベンジャ
ミンと蘭ちゃんが窓から離れて台所に急ぐ。散歩のあとの牛乳
のお相伴のためである。
部屋に帰ってきたももちゃんは荒い息を吐きながらじっと父
親の目を見つめている。導尿による感染症の心配から解放され
たことと、膀胱神経が回復してきていることが確認できたこと
によって最低限度の運動能力の回復予測が立てられることとで
満面に笑みをたたえて身体を撫で回している父親の目を甘えた
顔で見つめている。
クーラーがガンガン回っている部屋の温度が下がろうとしな
い。窓の外の庭では、植木の周りを掘り返した急造の窪みの中
で大五郎とちびそしてはちの三頭が気怠そうに腹這いになって
いる。埋めても埋めても掘り返される椿の木の下の窪地が、庭
の三頭の格好の避暑地なのであろう。
つい最近までうるさく鳴いていたセミの声も殆ど聞こえなく
なっている。杏の木に雀がとまり大五郎たちの食餌のおこぼれ
を狙っている。まるまると太った雀が軽やかに庭に置いたステ
ンレスの食餌皿の方に降りていった。
大五郎たちは動こうともしない。
足下でももちゃんが寝息を立て始める。
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