某月某日、ベンジャミンと蘭の二頭を連れて夕方の散歩に出
かける。蘭ちゃんはいつも通りただ前進あるのみ、ベンジャミ
ンは男の子(正確には中性)らしく要所要所でのマーキング。
このところの天候のせいか、陽が落ちると寒さがことのほか
身に凍みる。いつも散歩の時間に出逢う近所の悪餓鬼どもに今
日は遭遇しない。この調子でいけば往復六キロの散歩も早く済
みそうだと思ったとき、車道を隔てた筋向こうから接近してき
た巨大な黒い犬二頭・・・・・
首輪もリードも着けていないグレートデンが二頭、まさに異
常接近を試みたのである。脚の悪い蘭と、それをかばおうとす
るベンジャミン。
私の体格をはるかに上回るグレートデン二頭と小型犬のビー
グル蘭と体重十六キロ程の中型のベンジャミンそして私の三人!
超大型犬グレートデン二頭との緊迫したにらみ合いおよそ五
秒!
「ダメェーーーー、ウギャァーーーー」
「ウーッワン!」
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ベンジャミンの体当たりを受けた一頭が先ず尻尾を巻いて後
退、続く一頭も車道を渡って自宅の庭に・・・
十里四方にも届くかと思われるような私の声に、開いていた
二階の窓からグレートデンの飼い主がじっと覗いていた。慌て
て出てくる気配はない。きっちりと閉まっていなかった門扉の
隙間から抜け出したのであろう。二頭はこそこそと庭の隅の方
へ退散した様子であった。飼い主は相変わらず出てくる気配を
見せない。
頭の中は完全に真っ白であった。恐怖心も何もなかった。一
年ほど前にも、近所の駐車場でリードも着けずに遊んでいた彼
らグレートデンに遭遇し、その時も大声を挙げにらめっこをし
た覚えがある。
「こんな飼い方をしていると何れ大変なことになるなぁ」
その時はただそう思っただけであった、しかしまさか一年後
に同じ恐怖を味わうとは・・・・・
もしベンジャミンと蘭にリードを着けていなかったら・・・
と思うと、今度は本当に背筋がゾクッとしてきた。
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