恐怖のグレートデン二頭



4月8日
 某月某日、ベンジャミンと蘭の二頭を連れて夕方の散歩に出
かける。蘭ちゃんはいつも通りただ前進あるのみ、ベンジャミ
ンは男の子(正確には中性)らしく要所要所でのマーキング。

 このところの天候のせいか、陽が落ちると寒さがことのほか
身に凍みる。いつも散歩の時間に出逢う近所の悪餓鬼どもに今
日は遭遇しない。この調子でいけば往復六キロの散歩も早く済
みそうだと思ったとき、車道を隔てた筋向こうから接近してき
た巨大な黒い犬二頭・・・・・

 首輪もリードも着けていないグレートデンが二頭、まさに異
常接近を試みたのである。脚の悪い蘭と、それをかばおうとす
るベンジャミン。

 私の体格をはるかに上回るグレートデン二頭と小型犬のビー
グル蘭と体重十六キロ程の中型のベンジャミンそして私の三人!

 超大型犬グレートデン二頭との緊迫したにらみ合いおよそ五
秒!

 「ダメェーーーー、ウギャァーーーー」

 「ウーッワン!」
 ベンジャミンの体当たりを受けた一頭が先ず尻尾を巻いて後 
退、続く一頭も車道を渡って自宅の庭に・・・


 十里四方にも届くかと思われるような私の声に、開いていた
二階の窓からグレートデンの飼い主がじっと覗いていた。慌て
て出てくる気配はない。きっちりと閉まっていなかった門扉の
隙間から抜け出したのであろう。二頭はこそこそと庭の隅の方
へ退散した様子であった。飼い主は相変わらず出てくる気配を
見せない。

 頭の中は完全に真っ白であった。恐怖心も何もなかった。一
年ほど前にも、近所の駐車場でリードも着けずに遊んでいた彼
らグレートデンに遭遇し、その時も大声を挙げにらめっこをし
た覚えがある。

 「こんな飼い方をしていると何れ大変なことになるなぁ」

 その時はただそう思っただけであった、しかしまさか一年後
に同じ恐怖を味わうとは・・・・・

 もしベンジャミンと蘭にリードを着けていなかったら・・・
と思うと、今度は本当に背筋がゾクッとしてきた。