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怪傑ちびら



4月8日
 五色台の登山口で親子共々捨てられていた「ちび」も、わが 
家の末っ娘となってから早一ヶ月が過ぎた。

 家族の一員となったその日から、まるでものおじということ
をしなかったちびではあるが、一日一日と体重も増え、ごわご
わだった毛並みもどうにか見られるようにまでは回復してきた
ようである。

 出勤時と帰宅時には一番に跳んできて顔中をぺろぺろとなめ
てのご挨拶、先輩の「玲」と「もも」を押し退けるのは当たり
前のこと。番犬としてもかなりの優秀さを発揮?

 他人がきても決して吠えることはない。鳩が庭の木にとまっ
たときと、雀君がこぼれた鳩の餌を拾うため庭に降りたときだ
け、威勢よく「ウワンッフゥァン!」ほれぼれとするワン君の
声とは到底言い難い、なんとも変な啼き声を挙げるのを常とし
ている。

 食餌の時も一番に跳んでくるし、まさに二階堂家で生まれ、
ずっと二階堂家で育ちましたという確信に満ちた顔つきをして
いる。そういえば、ベンジャミンを拾ってきたときもそうであっ
た。近所のおばあさんが「まあー、この子はずっと此処で育っ
たような顔をして・・」とベンジャミンを見る度に言っていた
のを思いだした。ちびもその言葉通りの行動というか態度を見
せているようである。
 蘭の良い遊び相手でもあるちびの得意技は、尻尾を咬むこと
と蘭の長い耳をねらっての波状攻撃! 行司役のベンジャミン
がうるさく吠えて止めに入るまで、攻撃の手(?)を緩めるこ
とをしない。


 やっと蘭への攻撃が一段落したと思う間もなく、今度は二階
堂氏お気に入りの椿の群落へのいたずらが始まる。花をつけた
椿は勿論のこと、ちびの通った跡には実に様々な木の葉の死骸!
当たるを幸いと喰いちぎってゆく様は「お見事」の一語。

 木の葉の乱舞に続いては庭の穴堀! 頼まれもしないのにし
っかりと庭に大きな窪みをこしらえてくれる。数え上げればき
りがないというのがちびの日課のお遊びだろう。

 亡くなった蔡(はな)の小屋を自分の小屋として寝起きし、
鳩と雀を追いかけながら日中を過ごすちびの姿から、仔犬五頭
と共に雨に打たれ風に吹かれていた五色台でのあの寂しそうな
顔を思い起こすことは、もうなくなった。今のちびに贈る言葉
があるとすれば「怪傑ちびら」の一言であろう。