五色台の登山口で親子共々捨てられていた「ちび」も、わが
家の末っ娘となってから早一ヶ月が過ぎた。
家族の一員となったその日から、まるでものおじということ
をしなかったちびではあるが、一日一日と体重も増え、ごわご
わだった毛並みもどうにか見られるようにまでは回復してきた
ようである。
出勤時と帰宅時には一番に跳んできて顔中をぺろぺろとなめ
てのご挨拶、先輩の「玲」と「もも」を押し退けるのは当たり
前のこと。番犬としてもかなりの優秀さを発揮?
他人がきても決して吠えることはない。鳩が庭の木にとまっ
たときと、雀君がこぼれた鳩の餌を拾うため庭に降りたときだ
け、威勢よく「ウワンッフゥァン!」ほれぼれとするワン君の
声とは到底言い難い、なんとも変な啼き声を挙げるのを常とし
ている。
食餌の時も一番に跳んでくるし、まさに二階堂家で生まれ、
ずっと二階堂家で育ちましたという確信に満ちた顔つきをして
いる。そういえば、ベンジャミンを拾ってきたときもそうであっ
た。近所のおばあさんが「まあー、この子はずっと此処で育っ
たような顔をして・・」とベンジャミンを見る度に言っていた
のを思いだした。ちびもその言葉通りの行動というか態度を見
せているようである。
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蘭の良い遊び相手でもあるちびの得意技は、尻尾を咬むこと
と蘭の長い耳をねらっての波状攻撃! 行司役のベンジャミン
がうるさく吠えて止めに入るまで、攻撃の手(?)を緩めるこ
とをしない。
やっと蘭への攻撃が一段落したと思う間もなく、今度は二階
堂氏お気に入りの椿の群落へのいたずらが始まる。花をつけた
椿は勿論のこと、ちびの通った跡には実に様々な木の葉の死骸!
当たるを幸いと喰いちぎってゆく様は「お見事」の一語。
木の葉の乱舞に続いては庭の穴堀! 頼まれもしないのにし
っかりと庭に大きな窪みをこしらえてくれる。数え上げればき
りがないというのがちびの日課のお遊びだろう。
亡くなった蔡(はな)の小屋を自分の小屋として寝起きし、
鳩と雀を追いかけながら日中を過ごすちびの姿から、仔犬五頭
と共に雨に打たれ風に吹かれていた五色台でのあの寂しそうな
顔を思い起こすことは、もうなくなった。今のちびに贈る言葉
があるとすれば「怪傑ちびら」の一言であろう。
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