ちびとだい



5月29日
 「だ〜い」

 「ウキュン キュン キュン ゥキュン」

 外出から帰り門の外から大五郎を呼ぶと、必ず返ってくる返
事である。門扉のところまで体をくねらせながら出迎えてくれ
る。

 門を開け中に入ると、もう戦争である。好奇心が強く、門外
に脱出を度々試みた前科の有るももとちびは可哀想だが長いチ
ェーンで繋がれたまま。

 おとなしい大五郎と玲は庭での自由行動が許されている。先
ず玲がにじり寄ってきてペロペロ攻勢、その横から或は玲の背
中に前脚をかけて大五郎がまたまたペロペロペロペロ。

 繋がれているももは何とも形容することのできない独特の吠
え声で私を呼び、ちびに至っては何とか私に近づこうと、繋が
れたままでの決死のジャンプ!

 かくて私の洋服は泥だらけの足跡だらけとなるのである。最
近では出社は裏の勝手口から、帰宅は表門からということになっ
てしまった。

 ベンジャミンと蘭の散歩の後、庭で四頭と暫く遊ぶことを日
課にしているものの、私が庭のベンチに座ると、全員ベンチの
前と横に陣取り一向に遊ぼうとしない。何とか他のワン君の注
意を逸らして私を独占しようと全員が虎視耽々。

 誰か一人でも私の膝に手を掛けようものならもう収拾がつか
ない状態になる。背中の方からももちゃん、左からは玲ちゃん
が、そして前からはちびちゃんと大五郎・・・小さなベンチを
挟んでのペロペロ戦争の始まりである。
 唇は荒れてひりひり、腕と足は引っ掻き傷でミミズ腫れ、下
手をすると口をこじ開けようとするちびちゃんの前脚の爪痕で
あごに縦縞が何本か入ることも・・・お産の後すぐに捨てられ
ていたちびちゃんもすっかり肉がついてずっしりと重くなり、
体長体高共に大五郎を追い抜いた。

 大五郎もかなりの重量である。勿論家付き娘のももと玲は中
年太りも手伝って破格の重さ! 四対一の決闘は、私にとって
少々体力的に厳しいものを感じさせるのだが、夕食前の一家団
欒の心弾むひとときである。

 私の見ていない時には、大五郎の尻尾と言わずあちこちを咬
んでは引っ張り回しているちびちゃん、決してそんな乱暴な素
振りは私には見せないし、言うこともよく聞いてくれている。

 しかし大政所に言わせると、言うことは殆ど聞かないし、大
五郎を追いかけ回して遊んでいるとのこと。

 二階堂家で男はベンジャミンと大五郎そして私の三人だけ、
後の六人は皆女性・・・強いのも致し方のないことなのかも〜


 五色台の野生児たちの一人として生まれ、仔犬たちのリーダー
として育ってきた大五郎も日毎に甘えん坊の末っ子に変りつつ
あり、縁あって五色台の登山口から二階堂家にやってきたちび
ちゃんは、もうすっかり家風を身につけ、ここで生まれここで
育ってきましたとばかり活発に日々を過ごしている。

 狭い庭の中だけの限られた自由ではあろうが、人の心を心と
して汲み取ってくれているようである。

 これからもずっとずっと幸せでいて欲しい。