「だ〜い」
「ウキュン キュン キュン ゥキュン」
外出から帰り門の外から大五郎を呼ぶと、必ず返ってくる返
事である。門扉のところまで体をくねらせながら出迎えてくれ
る。
門を開け中に入ると、もう戦争である。好奇心が強く、門外
に脱出を度々試みた前科の有るももとちびは可哀想だが長いチ
ェーンで繋がれたまま。
おとなしい大五郎と玲は庭での自由行動が許されている。先
ず玲がにじり寄ってきてペロペロ攻勢、その横から或は玲の背
中に前脚をかけて大五郎がまたまたペロペロペロペロ。
繋がれているももは何とも形容することのできない独特の吠
え声で私を呼び、ちびに至っては何とか私に近づこうと、繋が
れたままでの決死のジャンプ!
かくて私の洋服は泥だらけの足跡だらけとなるのである。最
近では出社は裏の勝手口から、帰宅は表門からということになっ
てしまった。
ベンジャミンと蘭の散歩の後、庭で四頭と暫く遊ぶことを日
課にしているものの、私が庭のベンチに座ると、全員ベンチの
前と横に陣取り一向に遊ぼうとしない。何とか他のワン君の注
意を逸らして私を独占しようと全員が虎視耽々。
誰か一人でも私の膝に手を掛けようものならもう収拾がつか
ない状態になる。背中の方からももちゃん、左からは玲ちゃん
が、そして前からはちびちゃんと大五郎・・・小さなベンチを
挟んでのペロペロ戦争の始まりである。
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唇は荒れてひりひり、腕と足は引っ掻き傷でミミズ腫れ、下
手をすると口をこじ開けようとするちびちゃんの前脚の爪痕で
あごに縦縞が何本か入ることも・・・お産の後すぐに捨てられ
ていたちびちゃんもすっかり肉がついてずっしりと重くなり、
体長体高共に大五郎を追い抜いた。
大五郎もかなりの重量である。勿論家付き娘のももと玲は中
年太りも手伝って破格の重さ! 四対一の決闘は、私にとって
少々体力的に厳しいものを感じさせるのだが、夕食前の一家団
欒の心弾むひとときである。
私の見ていない時には、大五郎の尻尾と言わずあちこちを咬
んでは引っ張り回しているちびちゃん、決してそんな乱暴な素
振りは私には見せないし、言うこともよく聞いてくれている。
しかし大政所に言わせると、言うことは殆ど聞かないし、大
五郎を追いかけ回して遊んでいるとのこと。
二階堂家で男はベンジャミンと大五郎そして私の三人だけ、
後の六人は皆女性・・・強いのも致し方のないことなのかも〜
五色台の野生児たちの一人として生まれ、仔犬たちのリーダー
として育ってきた大五郎も日毎に甘えん坊の末っ子に変りつつ
あり、縁あって五色台の登山口から二階堂家にやってきたちび
ちゃんは、もうすっかり家風を身につけ、ここで生まれここで
育ってきましたとばかり活発に日々を過ごしている。
狭い庭の中だけの限られた自由ではあろうが、人の心を心と
して汲み取ってくれているようである。
これからもずっとずっと幸せでいて欲しい。
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