軽い心臓発作の連続と強度の頭痛のため二日間というもの書
斎と寝室の往復以外に動くことができなかった。発作の兆候が
少しでも治まると庭の椅子に座り、忙しく周囲を走り回る二階
堂軍団の面々との交流にその殆どを費やした。
蘭ちゃんとほぼ同じ体高体長に成長しているはち君はさすが
に元気一杯である。三本足で頑張る蘭ちゃんを押さえ込み、脚
をくわえ、のしかかってゆく。攻撃の手を決して弛めることは
ない。
後肢が不自由な蘭ちゃんと言えば、はち君を押さえ込みたい
ものの、前肢をはち君の体に掛けることができない。何とか前
肢をはち君に掛けることはできても、体を支えることができず、
結局ははち君に押さえ込まれた体勢での防御に終始するのであっ
た。
普段はあまりの騒がしさに庭に出ることを好まないベンジャ
ミンも、今日は自分から外に出るとの意志表示。庭に出てきて
はくれたのはいいのだか、目敏く見つけたちび君のめちゃくちゃ
な歓迎に早くも鼻に皺を寄せての威嚇。
やっとの思いで隣の椅子に陣取ったベンジャミン、下に降り
ればはち君と大五郎の熱烈歓迎。さりとて椅子の上では遊ぶこ
ともできず、頼みのご主人はちびちゃんたちに占拠され、打つ
手もなくじっと椅子の上の人?
女の子にうるさく言い寄られるのであればまだしも、はち君
も大五郎もれっきとした男性。どうもベンジャミン、男に好か
れる何かを持っているのであろう。散歩に出ても、ひつこく言
い寄ってくるのはたいてい雄であった。多分に去勢手術のいわ
ば後遺症なのであろう。
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さてちびちゃんはと言えば、「絶対ご主人はわたしません」
とばかり、しっかり私の正面に陣取り動く気配などまるでなし。
隙を見て玲ちゃんとももちゃんが肘掛けに前肢でも掛けようも
のなら大パニックである。
あわてて膝に両肢を掛け、渾身の力を込めて抱きついてくる。
誰かが鼻先を伸ばして私を舐めようとすれば、その鼻先を頭で
押しのけ無理矢理唇を奪いにくるのであった。体格のいいもも
ちゃんも玲ちゃんも、ちびちゃんの気迫には勝てないようであ
る。
狭い庭の中で遊ぶ七頭の二階堂軍団の面々、家の中から決し
て外に出ようとしないしろちゃんが加われば、幸せのナインテッ
ド! こんなにも忠実で誠実な家族と刻を過ごすことのできる
至福感にさしもの頭痛も逃げ出してくれたようである。
頭上から降ってくるヒグラシの騒がしい声にぽかんと口を開
けて上を見ているはち君の何とも言いようのない間の抜けた顔
つきの中に、通り過ぎていった名前も知らない、二度と逢うこ
ともなかった野生児たちの心の風景が重なってきた。
夏の終わりの一日が淡い哀しみを誘いながら暮れようとして
いる。
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