軍団勢揃い



8月28日
 軽い心臓発作の連続と強度の頭痛のため二日間というもの書 
斎と寝室の往復以外に動くことができなかった。発作の兆候が
少しでも治まると庭の椅子に座り、忙しく周囲を走り回る二階
堂軍団の面々との交流にその殆どを費やした。

 蘭ちゃんとほぼ同じ体高体長に成長しているはち君はさすが
に元気一杯である。三本足で頑張る蘭ちゃんを押さえ込み、脚
をくわえ、のしかかってゆく。攻撃の手を決して弛めることは
ない。

 後肢が不自由な蘭ちゃんと言えば、はち君を押さえ込みたい
ものの、前肢をはち君の体に掛けることができない。何とか前
肢をはち君に掛けることはできても、体を支えることができず、
結局ははち君に押さえ込まれた体勢での防御に終始するのであっ
た。

 普段はあまりの騒がしさに庭に出ることを好まないベンジャ
ミンも、今日は自分から外に出るとの意志表示。庭に出てきて
はくれたのはいいのだか、目敏く見つけたちび君のめちゃくちゃ
な歓迎に早くも鼻に皺を寄せての威嚇。

 やっとの思いで隣の椅子に陣取ったベンジャミン、下に降り
ればはち君と大五郎の熱烈歓迎。さりとて椅子の上では遊ぶこ
ともできず、頼みのご主人はちびちゃんたちに占拠され、打つ
手もなくじっと椅子の上の人?


 女の子にうるさく言い寄られるのであればまだしも、はち君
も大五郎もれっきとした男性。どうもベンジャミン、男に好か
れる何かを持っているのであろう。散歩に出ても、ひつこく言
い寄ってくるのはたいてい雄であった。多分に去勢手術のいわ
ば後遺症なのであろう。
 さてちびちゃんはと言えば、「絶対ご主人はわたしません」
とばかり、しっかり私の正面に陣取り動く気配などまるでなし。
隙を見て玲ちゃんとももちゃんが肘掛けに前肢でも掛けようも
のなら大パニックである。

 あわてて膝に両肢を掛け、渾身の力を込めて抱きついてくる。
誰かが鼻先を伸ばして私を舐めようとすれば、その鼻先を頭で
押しのけ無理矢理唇を奪いにくるのであった。体格のいいもも
ちゃんも玲ちゃんも、ちびちゃんの気迫には勝てないようであ
る。

 狭い庭の中で遊ぶ七頭の二階堂軍団の面々、家の中から決し
て外に出ようとしないしろちゃんが加われば、幸せのナインテッ
ド! こんなにも忠実で誠実な家族と刻を過ごすことのできる
至福感にさしもの頭痛も逃げ出してくれたようである。

 頭上から降ってくるヒグラシの騒がしい声にぽかんと口を開
けて上を見ているはち君の何とも言いようのない間の抜けた顔
つきの中に、通り過ぎていった名前も知らない、二度と逢うこ
ともなかった野生児たちの心の風景が重なってきた。

 夏の終わりの一日が淡い哀しみを誘いながら暮れようとして
いる。