二階堂軍団、ドンは「はち」君



7月24日
 台風の余波であろうか、朝から曇ったり霧雨になったりと、
もう一つはっきりしないお天気の土曜日であった。五色台の野
生児たちは、クロとコロそしてあのドロボウ顔のチビスケ君以
外には逢えなかった。生暖かい風が吹き、お腹を返して甘える
コロのお相手をしているだけで汗が流れ落ちてきた。

 峠下の窪地と岬との中間点で出合ったコロも、全力疾走で車
を追いかけてきたせいだろう、大きな舌を出して荒い呼吸を繰
り返しながらも甘えることは止めようとはしなかった。

 それどころか、食器に入れたパンを食べようとはせず、手か
ら与えるパンを一生懸命に食べるのであった。ひとしきりパン
を食べると、私の手を舐めたり、軽く手の先を咬んだりして気
をひこうとする。

 目尻を垂らし、頭を低く構え、口を半開きにして跳びついて
くるコロと汗まみれになって暫く遊ぶ。白いポロシャツが汗と
泥でぐしゃぐしゃになっていた。

 夕方からやっとホームセンターへ出掛ける。先日から気にな
っていたビーチデッキセットを購入。これでゆっくりとコーヒー
でも飲みながら二階堂軍団のわんちゃんたちと遊ぶことができ
る。

 早速狭い庭の中での二階堂氏争奪戦の始まりである。珍しく
外に出てきたベンジャミンだけは、椅子に座っての観戦。先ず
ちびちゃんが椅子の正面を争奪、膝に前肢をかけて濃厚キスの
タイミングを狙う。左横からは大五郎が肩に前肢をかけ、右か
らは玲ともも。はち君はと言えば、蘭に襲いかかっている。
 ベンジャミンに突っかかり、大五郎を威嚇、二階堂家の最高
位に就いていた筈の蘭ちゃんも、小さなはち君の攻撃には為す
術もないようであった。頭といわずのしかかってゆくはち君の
縦横無尽の攻撃に対し、流石の蘭ちゃんも切り返すことができ
ないままに目をしょぼつかせている。自分より小さなものを守
ろうとする原始本能の為せる技なのか!


 一番の新入りで一番小さなはち君の前を遮るものは何もない
ようであった。食餌も遊びも寝る時も、全てがはち君の思いの
ままである。膝に座り、辺りを睥睨している蘭ちゃんも、庭の
中では、はち君にドンの座を譲らないわけにはいかないのであ
ろう・・・。

 お座りの姿勢のまま、隙を狙ってはペロペロと舐めにくる大
五郎・・・

 絶対に自分が一番とばかり、他を押しのけてでも私の正面を
陣取るちびちゃん!

 遠慮がちな仕草乍ら二階堂家で生まれ育ったことで他を何と
か圧倒している玲とももちゃん!

 そしてそれらを一段高いところから静かに見ているベンジャ
ミン・・・


 形容のしようのない温かさと優しさが狭い庭一杯に漂い広がっ
ていた。膝の上の蘭ちゃんが欠伸を始め、ひとしきり暴れたち
びちゃんたちも椅子の周りで長くなっている。海岸公園では月
見草が花を開きベンジャミンと蘭の来訪を待っている筈である。