大五郎・ちび・はち


8月17日
大五郎・はち・ちび
 早いもので、大五郎とちびがわが家にきてもう四ヶ月、はち 
がきてからでも既に二ヶ月が過ぎた。掌に載るぐらいのまるま
ると太った狸のような顔をしていた大五郎も、すっかり大人の
体格になり、すらりと伸びた脚とふさふさの茶色の体毛に覆わ
れ、まん丸だった顔も鼻が前に伸び、耳がぴんと立った一見し
てシェルティとのハーフとわかるほどのスマートな顔立ちに変
わっている。

 体高も家の子供たちの中では大きい方であろう。初めのうち
は恐らく二十キロ近い体重になるであろうと予想していたのだ
が、十二キロ前後で止まり軽々と片手で抱き上げることができ
る。外部の見知らぬものに対しては相変わらず警戒心が強く、
僅かに門前で声を掛けるのを日課にしている藤本のおばちゃん
の呼び声にだけは素直に反応しているようである。

 たまに表から帰る私を見つけるとパニックになるらしい。背
中を丸め、ヒンヒンという甘えた声を出しながら、同僚たちの
背中をかきわけ、或いは馬乗りになって私への挨拶を試みるの
であった。
 確率五分の一の闘いが狭い庭の中で繰り広げられるのである。
乳房がパンパンに張り、頬がこけ狐のような顔をしてわが家に
やってきた桃子改めちびは、まるでこの家で生まれこの家でずっ
と育ってきましたと言わんばかりの、物おじしない態度で毎日
を過ごしている。

 ごわごわだった薄茶色の体毛も、柔らかく艶のあるオフホワ
イトと薄茶に変わり、大五郎より一回り小さかった体高は変わ
らないものの、体重は十二キロと肉付きもよく、活発に走り回
っている。一番の甘えん坊でありきかん坊でもあるようだ。五
分の一の闘いを決して譲ることなく、何とか私の関心をひく場
所を確保し、先輩の玲やももを押し退けることなどは至極当た
り前のこと。両前肢を私の頚に回し、すがりついてくる様はま
さに百年の恋人の姿そのものである。


 そんなきかん気のせいであろうか、最近では玲ちゃんのいじ
めの対象になっている。一回り大きな玲ちゃんが低い唸り声と
共にちびに忍び寄る。ポテンとお腹を見せて恭順の姿勢をとる
ちび。ひっくり返ったちびを跨いでなおも威嚇する玲ちゃん。
無用な抵抗はトラブルの基と心得ているうちはいいのだが、た
まに唸り返すと大変である。私以外には止められないほどの大
喧嘩に発展する。
 そんな先輩たちの行動には全くおかまいなしのマイペース、
足元にじゃれ付き、ちょっとでも隙を見せると書斎に潜り込も
うとするはち君!

 ずっしりと重くなったはち君を追い回し、というより適当に
からかわれているのが妻君殿。ご主人様のいないときは最年少
者の天下とばかり庭に穴を掘り、木の葉を食いちぎり枝を折っ
て遊ぶ。

 狭い庭の中を塵の山にして妻君殿の仕事を増やしているよう
である。何れ劣らぬやんちゃ坊主におてんば娘! 主人である
私に向かっては決してそのいたずらぶりを見せることはない。

 椅子の周りに陣取り、特等席である膝の上を虎視眈々と狙う
だけである。缶詰を開けていても、その姿勢は変わらない。お
座りの姿勢で私の手元と目を見つめている。

 縁あって二階堂家の一員となった大五郎やちびたち、それぞ
れの置かれていた環境も、育った状態も違うものの、花を愛で、
鳥を愛し、風の音を聞き人の優しさを充分に理解しているので
あろう。優しい心だけは何れ劣らず持ち続けているようである。

 はちとちびが重なって居眠りを始めた。