この一週間、局に出ても早退を繰り返し、遂に今日は局に出
ることさえできなかった。寒に入り厳しい冷え込みが続いてい
る。五色台の野生児たち・海の野生児たちに給餌に出掛けるこ
ともままならない。
寒さの中で食餌を十分に採ってくれているだろうか? 夜寝
るときは、みんなで固まって寒さを防いでくれているであろう
か? 病気はどうだろう・・・・・など、次から次へと心配が
湧いてくる。
心配になったのだろう、昨夜はベンジャミンと蘭がベッドか
ら離れなかった。二頭に挟まれて寝るのは、本当はかなり窮屈
なことである。特に体重十七キロのベンジャミンが左側にぴっ
たりとくっついているため、寝返りも打てず、布団も引っ張ら
れ、病身にはこたえる。しかし、顔を合わすと心配そうに覗き
込み、かなり長い時間ぺろぺろと顔中を舐め回して心配してい
ることを伝えてくるベンジャミンの真剣な表情に、「頑張らな
ければ」と気を引き締められるのも、また嬉しい家族愛の一つ
である。
昨夜の散歩のときに見た久しぶりの茜空が、瞼の奥から離れ
ない。黒い五色台の稜線からのびて空全体をを彩っていた茜色!
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「あの茜空の下に、太郎も胡桃も権兵衛もクロも、みんな元
気に駆け回っているんだ!」そう考えながら眺めた西の空だっ
た。見事なまでに空間を切り裂いていた五色台の稜線と、その
山々を包み込む茜色の空! 哀しくもあり美しくもあった夕暮
れの一刻であった。
木枯らしに吹かれて回る走馬燈のように夢が回転する。いろ
いろな景色があったような気がする。いろいろな顔もあったよ
うな気もする。寒い日も、暑い日も、雨の日も、風の日も・・
いろいろな毎日があった。何も浮かんでこない。
バラバラに浮かんでくる古びた写真のような情景を、懸命に
脳裏に書き留めようとする。太郎やクロ達の一つ一つの動作を
思い出そうと目を閉じる。浮かんでくる情景が止まってくれな
い。
捕まえることのできない写真が頭の中をぐるぐるぐるぐる回
る。癌に罹った子の痛々しい顔が突然浮かぶ。わずか十分の距
離を埋めることができない。
寒き夜の 山を想へば浮かび来る
逝き去りし子の懐かしき顔
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