東京では雪が降ったという。日中の暖かさとは裏腹に夕方の
時雨から、風がびゅうびゅうと音を立てしんしんと冷え込み始
める。
午後八時、ベンジャミンと蘭の散歩の時間である。赤い靴を
履くのももどかしそうに戸口でワンワンと催促の声をあげる蘭
をなだめながら自転車にまたがる。
路面はまだ濡れていた。勢いよく飛び出した二頭を左手に、
ハンドルを右手に持っての散歩の始まりである。総合体育館の
横から、川沿いの道に抜け瀬戸大橋通りと名付けられた幹線道
路の歩道を走り、壇ノ浦の合戦で有名な屋島を目指す。
途中に海岸公園とサッカー場があるが、今夜はもう少し先の
三角公園まで脚を伸ばす。
屋島大橋を渡るときの風は、さすがに冬の季節風であった。
ベンジャミンの長い毛が逆立ち、耳がちぎれそうになるぐらい
冷たい。
二つの川が合流したところに造られた三角形の公園、「新浜
緑地」という正式な名前がついているのだが、私の中ではいつ
も三角公園である。
水銀灯が公園全体を照らし出し、手入れの行き届いた芝生は
格好の運動場である。目の前に高松の市街地の光がキラキラと
輝き、流れがあるのかどうかわからない二つの川が静かに横た
わっている。
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芝生に腰を下ろしベンジャミンと蘭を見守る。川沿いの土手
を右に左に走り、時折顔を上げて私の存在を確認するベンジャ
ミン。普段は我侭一杯の蘭も、一旦外に出るとベンジャミンに
ひっついて離れない。
風が一段と強くなり、うなり声をあげ始める。街の明かりの
向こうに五色台が眠っている。雪雲が出ている。見えない五色
台の稜線の辺りからちぎれた白い雪雲が飛んでくる。
星も出ていない空に浮かんだちぎれ雲を追いかけながら、野
生児たちのことを思う。
轟々と唸る冬の風、悲鳴をあげながら左右に揺れる樹々。風
と空と樹々の空間にぽっかりと空いた小さな楽園、山上の駐車
場・・・・・一年半の年月が流れた。
あの空間で何が起こったのであろう。子供たちは何を語りた
かったのであろうか。諸行無常・・・・・水は流れ、雲は行く。
雪雲を追いかける私の中の刻は止まったままである・・・・
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