今日も全員元気にしているだろうか? 雨が続いて食糧の調
達が大変だっただろうなぁ・・・全員に逢えるだろうか!
出かける前の不安と期待で入り交じった気持ちを抑えながら、
できるだけ多くの食糧をトランクに積み込む。細い雨が時々落
ちてきていた。その間から時折薄日も射し始める。
鉛色の海を右に、上三分の一が雲に隠れた五色台に向かう。
登山口のコロが追いかけてくるのを振り切るようにスピードを
上げて有料道路に入る。いつもの時間より少し早めであった。
ヘヤピンカーブを曲がり視界が広がる。誰もいない駐車場に
車を停めようとしたとき、太郎が左手の潅木の間からのそっと
出てくる。権兵衛とさくらは出かけているようだ。
スチロールの大皿に取りあえず太郎の食餌を用意して草の上
に置く。空腹なのであろう、一生懸命に食べている。きれいに
空になっていた寿司桶を洗い、できるだけ多くの食餌を盛りつ
け、雨に濡れない場所を選び、一つずつ置いてゆく。
食パンはトイレの右側の大きなひさしの下に、ドライフード
は左側のひさしと、トイレの裏に、そして缶詰類は数カ所に分
けて・・・・・
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さくらと権兵衛のいない寂しさを紛らすようにぶつぶつと一
人で喋りながらの給餌であった。ポツリポツリと降り始めた雨
が太郎の背中を濡らし始めていた。
さくらと権兵衛は帰ってこない。この雨の中、何をしている
のだろうか。お腹は減っていないだろうか。仔犬たちはみんな
元気に育っているだろうか。おいしいご飯を置いてあるから、
早く食べに帰っておいで・・・・・
太郎! 大五郎は大きくなったし、歩き方も尻尾の振り方も
お前によく似てきた。元気に暮らしているから、太郎も頑張れ!
しっかり食べて・・・・・言葉が続かなかった。
いつものことながら、ただだまって与えられる食餌を食べ、
擦り寄ってくるでもなく、さりとて無視するというわけでもな
く、雨の中を食後の散歩とテリトリーの点検に出かける太郎を、
ただ見送ることしかできない。
潅木の茂みの中で一輪の山百合が頭を垂れ、一人と一頭の音
のない会話にじっと聞き入っていた。
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