午後十時過ぎ、瀬戸大橋博覧会記念公園の中にあるシーフー
ドレストランを出て高松に向け帰路に就く。フルオープンのサ
ンルーフから吹き込む風は完全に秋の風そのものであった。満
月を目標にゆっくりとアクセルを踏み込む。久方ぶりのゆっく
りとした夕食であった。特大ステーキを大好きなカリフォルニ
アワインで胃の中に流し込んだ後の気怠さに包まれながらのド
ライブであった。
心地よく耳に響くエンジン音と、カーステレオからの音楽が
日中の疲れを解きほぐしてくれるようであった。直線道路に入
り、満月に照らし出された五色台が黒くはっきりとしたシルエ
ットを描き、目の前一杯に広がる。
「ウン!」
「何だろう?」
「寂しい・・・・・」
ハンドルを握る左手に力が入り、目は国道沿いの深夜スーパー
を探して忙しく動く。直進すれば五色台トンネルを通り一路高
松へ。左折すれば、海岸沿いに大きく回り道をしながら岬のク
ロたちのところへ行ける。
信号は青、タイヤのきしむ音と共に車は大きくローリングし
ながら左に曲がる。食糧を買うための店がない。五百メートル
ほど走った後、またもやUターン。
やっとローソンの明かりを見つける。ビフカツ弁当とかいう
とにかく大きな肉の入った弁当を三個、二つだけ残っていたソー
セージを手に海岸沿いの道路を再び走る。
月明かりの下で五色台の稜線が大きく両手を広げて迎えてく
れているように左右に広がり、微かなシルエットではあるが山
頂の太郎たちが生活している駐車場奥の円錐形のドームも見え
てくる。
「胡桃、元気にしているか! さくら! 太郎! 権兵衛!」
闇に向かって語りかける・・・・・。
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大きく道路が左にうねり勾配がきつくなる。茶たちのいる窪
地がライトに照らし出される。
誰もいない!
果樹園の方を見上げても、名無しの姿も仔犬たちの姿もない。
岬のコロとクロのところに向かう。
水銀灯に煌々と照らされた岬の駐車場にも誰の姿もなかった。
合図の口笛を低く吹いてみる。誰も出てこない!
渇いた喉を潤すため、いつもの自動販売機で清涼飲料水を買
う。もう一度鋭く口笛を吹く。黒い影が一つ、茂みの中から歩
いてくる。急に早足になり、跳びつきそうな勢いで近づいてき
た。クロであった。
水銀灯の下に行き、買ってきた弁当を開けてやる。
「コロは?」
問いかけてみてもフサフサとした尻尾を振るだけであった。
ビフカツを喉を鳴らしながら食べているクロを置いて、もう
一度窪地の茶を探しに峠を下る。いなかった!
クロが二つ置いたソーセージの残りを口に入れたままお座り
の姿勢で待っていてくれる。縁石に腰を下ろしクロの顔を見つ
める。
一メートルほど離れたところに座ったままの姿勢で、時折通
り過ぎる車の方を見るものの姿勢を変えることもなく私を見つ
めている。
崖下のちびたちの捨てられていた小径は一メートル以上にも
のびた野草に覆われ、その向こうの海もいつの間にか漆黒に覆
われていた。
シルエットだけになった三角形の山頂では、太郎や権兵衛そ
してさくらたちが眠りに就いているのであろう。
いい夢を!
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