成犬は懐かないの嘘!



嘆  息
 里親捜しをするとき、よく耳にする「仔犬は可愛いからすぐ 
貰われて行くけど、成犬は懐かないし・・・」という半ば慣用
句的な言い方を聞くことが多い。果たしてそうであろうか!

 確かに仔犬は可愛い仕草で愛敬を振りまき、少々の粗相とか
いたずらも「まだ小さいから・・・」ということで許され、可
愛がられるものである。しかし、例えば生後六十日の仔犬を育
てることを考えてみると、そんなに悠長なものではないことも
また事実である。

 1 トイレの躾

 2 いたずらの許容範囲の躾

 3 食餌の量と回数

 4 ワクチンの接種などの病気の予防と駆虫

 5 成長にあわせた運動量の管理(散歩など)

 6 季節による温度管理

 7 睡眠時間の確保

 簡単に言えば、人間の赤ちゃんを一人育てるのとほぼ同じだ
けの、労力(愛情)と経済的な負担を必要とするということで
あろう。

 成犬を拾ってきて育てる場合も、同様の労力と経済的な負担
は要求されるものの、理解力の差とでもいうのであろうか、仔
犬の場合の三分の一ぐらいのエネルギーの消費で済むようであ
る。

 また前述の「成犬は懐きにくい」という観念であるが、これ
は私の経験から言えば全くの嘘であるということであろう。こ
れまで私が拾ってきた犬たちを列記してみると、

 しろ  雑種   雌  二カ月齢で拾得   交通事故

 蔡   雑種   雌  一才位       交通事故

 奈々  ビーグル 雌  一〜二才      棄て犬

 ベンジャミン 雑種 雄 一〜二才      棄て犬

 ちび  雑種   雌  一・二才      棄て犬

 この上に五色台の野生児たちを加えることもできるであろう
から、数の上ではある程度普遍的な傾向を導き出すことになる
のではないだろうか。
 前記の犬たちの何れも私によく懐き、家族にも同様によく懐 
いているのである。そればかりではなく、躾ということに関し
ても、どちらかというと全く教え込むということをしなかった
のであるが、「お手」「お預け」「待て」などの号令を始めと
して、あらゆる必要とされる言葉に対して的確に反応するので
ある。

 広場や山での散歩に際しては、リードを外し自由に行動させ
ているし、自動車の助手席でもシートベルトをきちんと着けて
おとなしく目的地までお供をしてくれるのも、極く当然のこと
となっている。

 このような交流及び反応については、仔犬の時から飼育して
きた多数のビーグル犬と何一つ差異はなかったのである。

 彼らの行動や反応を見る限り、懐くということに関しては仔
犬とか成犬とかという差はないように思える。成犬を懐かせる
ために要する日数も、決して長くはない。大体三日もあれば第
一段階には到達できるものである。

 こう考えてみると、「成犬は懐かない」或いは「懐きにくい」
などの観念は、「飼いたくないための逃げ口上」という風に理
解せざるを得ないのではないだろうかということに到達する。

 多くの愛護家たち、里親捜しに携わっている動物好きの人た
ちの中の大多数が、このような迷信じみた観念に呪縛されてい
る現実を目の当たりにするにつけ、野良君たちの将来を嘆息と
共に憂うものである。

 十頭の仔犬の里親を捜すことも非常に大切なことではあるも
のの、一頭の雌の成犬の里親を捜すことが、後に続く仔犬たち
何十頭にも匹敵するということに気がついて欲しいとつくづく
思う。