月あかり



10月28日
 明日はぐずついたお天気になるらしい。黒い雲が西の空を覆
っていた。暖房を入れた車内でも、足下が冷たい。ついにシー
トヒーターを入れる。車外温度は十四度を示している。殆ど風
のない海岸沿いの道を岬へと急ぐ。

 午後六時十分、コロたちのいる岬に到着。軽く口笛を吹くと、
コロが先ず坂道を跳んで下りて来る。その後ろからクロが元気
な姿を見せてくれた。

 いつものように、水車のように尻尾を振っている。食餌の中
に混入しておいた抗生物質が効いたようである。

 急いで缶詰を開け、二つのトレーに食餌を用意する。コロも
クロも余り食べようとはしない。側に来てお腹を返して甘える
コロの胃の辺りを触ってみる。パンパンに膨らんでいた。

 近くの軒下にドライフードと缶詰が盛り上げてあるトレーが
在った。おじいさんが、預けておいた食糧をちゃんと食べさせ
てくれているようである。
 コロが遊びたいという風情でしきりにお手をする。右前肢と
左前肢を交互に出して首を少し傾ける独特の甘えた仕草である。
鼻を思いきり摘んでやると、摘んだ手を軽く口にくわえ、その
あと全速力で周囲をぐるぐると走る。

 体調は完璧のようである。クロが少し拗ねているのであろう
か、五、六メートル離れたところでお座りをしたまま見つめて
いる。


 峠下の窪地には誰もいなかった。懐中電灯を照らしながら崖
の下の食糧置き場に下りる。大型のプラスティック桶一杯のド
ライフードも、周辺に置いていたパンも、綺麗になくなってい
た。

 茶か名無し、それとも仔犬たちが食べてくれたのであろうか!
少しだけ希望が湧いてくる。

 太郎たち一家の住んでいる山頂から冬の月が顔を覗かせ、三
角形の峰の頂を黒い影法師のように照らし出していた。