明日はぐずついたお天気になるらしい。黒い雲が西の空を覆
っていた。暖房を入れた車内でも、足下が冷たい。ついにシー
トヒーターを入れる。車外温度は十四度を示している。殆ど風
のない海岸沿いの道を岬へと急ぐ。
午後六時十分、コロたちのいる岬に到着。軽く口笛を吹くと、
コロが先ず坂道を跳んで下りて来る。その後ろからクロが元気
な姿を見せてくれた。
いつものように、水車のように尻尾を振っている。食餌の中
に混入しておいた抗生物質が効いたようである。
急いで缶詰を開け、二つのトレーに食餌を用意する。コロも
クロも余り食べようとはしない。側に来てお腹を返して甘える
コロの胃の辺りを触ってみる。パンパンに膨らんでいた。
近くの軒下にドライフードと缶詰が盛り上げてあるトレーが
在った。おじいさんが、預けておいた食糧をちゃんと食べさせ
てくれているようである。
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コロが遊びたいという風情でしきりにお手をする。右前肢と
左前肢を交互に出して首を少し傾ける独特の甘えた仕草である。
鼻を思いきり摘んでやると、摘んだ手を軽く口にくわえ、その
あと全速力で周囲をぐるぐると走る。
体調は完璧のようである。クロが少し拗ねているのであろう
か、五、六メートル離れたところでお座りをしたまま見つめて
いる。
峠下の窪地には誰もいなかった。懐中電灯を照らしながら崖
の下の食糧置き場に下りる。大型のプラスティック桶一杯のド
ライフードも、周辺に置いていたパンも、綺麗になくなってい
た。
茶か名無し、それとも仔犬たちが食べてくれたのであろうか!
少しだけ希望が湧いてくる。
太郎たち一家の住んでいる山頂から冬の月が顔を覗かせ、三
角形の峰の頂を黒い影法師のように照らし出していた。
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