十 日 戎



1月10日
 不景気風を吹き飛ばしたいという身勝手な人間様の「かなわ
ぬときの神頼み」、十日戎である。取材にいったキャスターか
らおみやげとして紅白のお餅を貰った。

 いつもなら誰かその辺の後輩に渡して持って帰るなどという
ことはしないのだが、今日に限って上着のポケットに大事にし
まい込む。頭の中に五色台の野生児たちと海の野生児たちのこ
とがあったからである。

 自分一人の努力でなんとかなるというような生やさしい状態
ではなく、それこそ神にも仏にもすがりつきたい程の深刻かつ
哀しい日々が続いているからである。

 午後八時、ベンジャミンと蘭を連れていつもの海岸公園へ出
掛ける。

 昨日もそして今夜も、風もなく穏やかな冬の日が続いている。
総合体育館裏の川面も、海岸公園前の海面も、まるで鏡のよう
に静かであった。生理中の蘭ちゃんは、至る所でオシッコ爆弾!

 それにつられてベンジャミンもあっちにフラフラこっちにヨ
ロヨロ、まるで前に進まない。昼過ぎから体調に異変を感じて
いたのが、橋を渡り海岸公園に着いたとき爆発する。左胸に痛
みが走りだしたのであった。それでもいつもほどの痛みではな
かったため、ベンジャミンと蘭の遊びを見守り帰り支度を始め
てからやっと舌下錠を口に含む。
 痛みはものの二分ほどで治まる。往路と同様、あっちこっち
に匂いを付けるベンジャミンと蘭につきあいながらやっと家に
たどり着く。「温かいお風呂に入ってゆっくりと手足を伸ばし、
ひろじいさんからのデーターを・・・・・」などと考えていた
ことは完全に雲散してしまう。

 椅子に座って呼吸を調えるのが精一杯! それでもひろじい
さんに電話をかけて、ひとしきり毒づいてみる。少しは元気が
回復したようであった。

 とはいいながら、まだ入浴できる状態ではない。妻君を拝み
倒し、缶詰とドライフードを混ぜて貰う。ケースに一杯の夜食
をトランクに積み、海の野生児たちに逢いに出掛ける。

 五郎とシロが出迎えてくれた。月がないため真っ暗な路上で
の給餌となる。トランクの明かりを頼りに五郎とシロの元気な
姿を確認する。

 カシラたちを探してみるが、もう何処か安全なところで眠っ
ているのであろう、鳴き声も聞こえない。自己満足だけの行動
かも知れないとは思いながらも、五郎とシロのお腹がふくれて
いるのを見るだけで、胸の痛みが消し飛んでしまう。

 みんな明日も元気で・・・・・おやすみ・・・・・