太郎と権兵衛は元気だった!



4月11日
 午後二時半、山裾での給餌を終え山頂の胡桃たちの住居へ。 
五色台スカイラインの桜並木は既に満開から散り初め。躑躅の
木も咲き誇った花に包まれて、まさに全山花、花、花!

 気温十四度の山頂はちょっぴり肌寒さを覚えるものの、快晴
微風の絶好の花見日和。マイカーでの見物客が大勢きているこ
とを想像しながら自然科学館横のヘヤピンカーブを曲がり胡桃
の住居跡までの直線に入る。

 ぴょんぴょんと斜めに跳ねながら茶色の中型犬が車の方に跳
んでくる。その後ろに小型の茶色の犬が・・・・・道路の真ん
中で立ち止まり、お座りの姿勢で車の方を見つめる「太郎」と
「権兵衛」。

 丁度二週間ぶりの対面である。定位置に車を止め、もう一度
側に寄ってきた二頭の犬を目を凝らして見つめる。間違いなく
太郎と権兵衛であった。痩せていないし、汚れてもいない。
怪我もしていないようであった。

 トランクを開けて食餌の用意に入ろうとしたとき、顔はパピ
ヨン、毛色もパピヨン、胴の長さはビーグル、脚はダックスフ
ントというなんとも形容のしようのないワン君が突然仲間入り。

 「ワンワン」と食餌の催促! 缶詰めを開けるのも待てない
ようにむさぼる。太郎もたまらず寄ってきて、一つの食器で仲
良く食べ始める。

 一通り食べ終わった太郎と権兵衛そして新しく仲間入りした
「さくら」の三頭は、原っぱでゴロゴロと満足そうな様子で食
後の腹ごなし。
 二週間ぶりに見る和やかな風景であった。やはり置いていた
食餌を食べてくれていたのは太郎と権兵衛だったのだろう。胡
桃がいなくなり、子供たちを保護したことで、「ひょっとする
と信頼関係が崩れたのでは」という懸念は、この時点で微塵も
なく消え去ってしまった。生理的欲求か或いは危険から逃れる
ために身を隠していたのだろう。

 元気な姿を再び見せてくれた太郎たちにどう感謝していいの
か、頭の中が空っぽになったまま時間だけが過ぎていった。こ
れで胡桃が此処にいてくれたらと、何度も何度も考えている自
分を打ち消しながら午後六時四十分「またくる」と、いつもの
挨拶を残して山を下りた。

 五色台の野生児太郎たちは、その生態の通り「最上位者」を
ちゃんと覚えていてくれた。そしてその最上位者である私が子
供たちを保護したことも、多分理解していてくれたのだろう。
胡桃も子供たちもいなくなった山上の駐車場で、いつもと変わ
らない心の会話が、優しさのキヤッチボールがこれからも続く、
続いて欲しい・・・