午後二時半、山裾での給餌を終え山頂の胡桃たちの住居へ。
五色台スカイラインの桜並木は既に満開から散り初め。躑躅の
木も咲き誇った花に包まれて、まさに全山花、花、花!
気温十四度の山頂はちょっぴり肌寒さを覚えるものの、快晴
微風の絶好の花見日和。マイカーでの見物客が大勢きているこ
とを想像しながら自然科学館横のヘヤピンカーブを曲がり胡桃
の住居跡までの直線に入る。
ぴょんぴょんと斜めに跳ねながら茶色の中型犬が車の方に跳
んでくる。その後ろに小型の茶色の犬が・・・・・道路の真ん
中で立ち止まり、お座りの姿勢で車の方を見つめる「太郎」と
「権兵衛」。
丁度二週間ぶりの対面である。定位置に車を止め、もう一度
側に寄ってきた二頭の犬を目を凝らして見つめる。間違いなく
太郎と権兵衛であった。痩せていないし、汚れてもいない。
怪我もしていないようであった。
トランクを開けて食餌の用意に入ろうとしたとき、顔はパピ
ヨン、毛色もパピヨン、胴の長さはビーグル、脚はダックスフ
ントというなんとも形容のしようのないワン君が突然仲間入り。
「ワンワン」と食餌の催促! 缶詰めを開けるのも待てない
ようにむさぼる。太郎もたまらず寄ってきて、一つの食器で仲
良く食べ始める。
一通り食べ終わった太郎と権兵衛そして新しく仲間入りした
「さくら」の三頭は、原っぱでゴロゴロと満足そうな様子で食
後の腹ごなし。
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二週間ぶりに見る和やかな風景であった。やはり置いていた
食餌を食べてくれていたのは太郎と権兵衛だったのだろう。胡
桃がいなくなり、子供たちを保護したことで、「ひょっとする
と信頼関係が崩れたのでは」という懸念は、この時点で微塵も
なく消え去ってしまった。生理的欲求か或いは危険から逃れる
ために身を隠していたのだろう。
元気な姿を再び見せてくれた太郎たちにどう感謝していいの
か、頭の中が空っぽになったまま時間だけが過ぎていった。こ
れで胡桃が此処にいてくれたらと、何度も何度も考えている自
分を打ち消しながら午後六時四十分「またくる」と、いつもの
挨拶を残して山を下りた。
五色台の野生児太郎たちは、その生態の通り「最上位者」を
ちゃんと覚えていてくれた。そしてその最上位者である私が子
供たちを保護したことも、多分理解していてくれたのだろう。
胡桃も子供たちもいなくなった山上の駐車場で、いつもと変わ
らない心の会話が、優しさのキヤッチボールがこれからも続く、
続いて欲しい・・・
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