午後二時半からいつも通り五色台の野生児たちに逢いに行く。
お土産はビーフ缶とドライフード。風が少々冷たかったものの、
給餌には丁度いいくらいの気温であった。
先ず山裾のコロ・クロ・茶たちから食餌を届ける。クロは鼻
をキュンキュン鳴らして長毛で覆われた尻尾を振る。コロは両
手を交互に頭の上から差し出す独特の「お手」のポーズで喜び
と感謝を示してくれる。
桜並木が風に吹かれて雪のような白い花びらを海の方へ、山
の方へとまき散らしていた。縁石に腰掛けてコロたちと暫く遊
ぶ。クロは少し離れたところから私を見つめながら尻尾を盛ん
に振ってくれていた。
私の右側に座って、手をなめたり時折歯を軽く立ててきて優
しく遊びにと誘うコロ! 両手を持って座らせてみても、逃げ
たり嫌がったりはしなくなっていた。
有料道路を入り、太郎たちの住居へ。カーブを曲がった途端、
太郎と権兵衛そしてさくらが途中まで出迎えにきてくれていた。
太郎独特の跳び上がりながら頭を下げる歓迎の挨拶に、野生
児たちの顔を見るまでいつもつきまとう「今日も元気でいるだ
ろうか?」という不安と緊張がすうーっと消えて行く。
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さくらはかなり空腹のようであった。太郎と並んで食餌を始
める。権兵衛はいつも通り、少し離れたところからじっと見て
いる。いなくなった胡桃とそっくりの顔をしている。左目が右
目より少し小さく、耳がピンと立っている。里親のところにも
らわれて行った「くるみ」も同じ目をしていた。ただ「くるみ」
の耳は父親の太郎譲りなのか、真ん中から綺麗に折れていた。
食餌を終えた三頭が、原っぱに寝転がって満足そうに私を見
つめている。去年の六月に初めて逢った時と変わらない光景が
そこにあった。ただ胡桃がいなくなっていることを除いては・・
午後四時半過ぎ、「太郎、またくるから・・・」の挨拶と共
に帰路につく。角を曲がって車が見えなくなるまで、太郎が静
かに見送ってくれていた。
いつも通りの静かな会話と生きていることの喜びを噛みしめ
た一刻であった。早い山の夕日が、散り始めた桜の花を茜色に
染めていた。
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