空と海の間で



1月8日
 うららかな小春日和である。昼前まで蘭ちゃんが添い寝をし
てくれたせいか、久しぶりに十分な睡眠をとる。とは言え、起
きあがってからおよそ二時間、椅子に座ってボーッとしたまま
で新聞を読む気にもなれない。

 ようやく顔を洗い衣服を着替えたときは既に二時半であった。
また逢うことができないだろうという重い感覚が出掛けようと
する気持ちを鈍らせるものの、ドライフード二ケースと缶詰一
ケースをトランクに積み込みエンジンを回す。

 貯木場では、カシラ、オフクロ、シロそして五郎の四頭が昼
寝をしていた。各々の食餌を用意して食べさせる。あまり空腹
ではないようであった。昨夜の食餌はきれいになくなっていた。


 クロと幸の帰りを待つが、一向に帰ってこない。埋め立て地
を一周し始める。一番北側の岸壁で二頭のワン君が塵を漁って
いた。近くの公園に車を停め食餌を用意する。

 二、三度口笛を吹くと二頭が近づいてくる。癌に侵されてい
る子と、短足のブチ君であった。缶詰を少し余計に開けて癌の
子に食べさせながら視診を試みる。

 この間まで外から見えていた左目は完全に潰れ、膿汁のよう
なものが流れ出ている。触診に移る。ちゃんとお座りをして触
らせてくれる。癌と膿で左の顔が腫れてしまっているが、痛み
はないようであった。

 呼吸をする度に、「フゴー」という異音が出る。尾を振って
いる・・・・・頑張れ・・・・・
呟くことしかできなかった。

 クロと幸はまだ帰ってきていなかった。五色台へ向かう。そ
れほど寒くはないように感じていたが、外気温は四度である。
岬はさすがに寒い。崖の上から車の方を見ていたコロが急いで
駆け下りてくる。歩道に寝ころんで手と脚をばたつかせての歓
迎である。
 缶詰の食餌をいつも通り食べてくれる。コロが散歩に誘う。
後ろを振り返りながら遊歩道を嬉しそうに歩くコロ。

 立ち止まってみていると、すぐに近くに帰ってくる。展望台
の坂道を途中まで上り、コロのお腹や首を撫でて別れを告げる。


 山上の駐車場に登る元気はなかった。山裾の窪地で茶や名無
したちを呼び、もっと下の集落まで下りてゆく。三角ドームが
はっきりと見えるところに車を停め、暫く山頂のあちらこちら
を眺める。

 何も見えない。再び岬に車を停める。崖の上でコロがお座り
の姿勢のまま待っていてくれた。歩道の縁石に座りコロのお相
手をする。風が出てきた。夕暮れの海に小さな波が無数に走り
始める。手を甘咬みしていたコロが起きあがったのを潮に車に
乗り込み、岬を後にする。

             *****            

 帰路再び立ち寄った貯木場では六頭の海の野生児たちが揃っ
ていた。クロと幸が鼻をきゅんきゅんならしながら寄ってくる。
相変わらず右手と左手で交互にお手をしながらクロが顔を舐め、
洋服の匂いを嗅ぎ、幸は少し離れたところで尻尾を激しく振っ
ている。

 横にいたカシラがクロを押しのけるようにして膝の間に割り
込んでくる。五郎もぴったりと身体をくっつける。シロはぼり
ぼりとドライフードをかじっている。

 暗闇が辺りをすっぽりと包み込み、足下から寒さが襲ってく
る。哀しみがこみ上げてきた・・・・・