うららかな小春日和である。昼前まで蘭ちゃんが添い寝をし
てくれたせいか、久しぶりに十分な睡眠をとる。とは言え、起
きあがってからおよそ二時間、椅子に座ってボーッとしたまま
で新聞を読む気にもなれない。
ようやく顔を洗い衣服を着替えたときは既に二時半であった。
また逢うことができないだろうという重い感覚が出掛けようと
する気持ちを鈍らせるものの、ドライフード二ケースと缶詰一
ケースをトランクに積み込みエンジンを回す。
貯木場では、カシラ、オフクロ、シロそして五郎の四頭が昼
寝をしていた。各々の食餌を用意して食べさせる。あまり空腹
ではないようであった。昨夜の食餌はきれいになくなっていた。
クロと幸の帰りを待つが、一向に帰ってこない。埋め立て地
を一周し始める。一番北側の岸壁で二頭のワン君が塵を漁って
いた。近くの公園に車を停め食餌を用意する。
二、三度口笛を吹くと二頭が近づいてくる。癌に侵されてい
る子と、短足のブチ君であった。缶詰を少し余計に開けて癌の
子に食べさせながら視診を試みる。
この間まで外から見えていた左目は完全に潰れ、膿汁のよう
なものが流れ出ている。触診に移る。ちゃんとお座りをして触
らせてくれる。癌と膿で左の顔が腫れてしまっているが、痛み
はないようであった。
呼吸をする度に、「フゴー」という異音が出る。尾を振って
いる・・・・・頑張れ・・・・・
呟くことしかできなかった。
クロと幸はまだ帰ってきていなかった。五色台へ向かう。そ
れほど寒くはないように感じていたが、外気温は四度である。
岬はさすがに寒い。崖の上から車の方を見ていたコロが急いで
駆け下りてくる。歩道に寝ころんで手と脚をばたつかせての歓
迎である。
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缶詰の食餌をいつも通り食べてくれる。コロが散歩に誘う。
後ろを振り返りながら遊歩道を嬉しそうに歩くコロ。
立ち止まってみていると、すぐに近くに帰ってくる。展望台
の坂道を途中まで上り、コロのお腹や首を撫でて別れを告げる。
山上の駐車場に登る元気はなかった。山裾の窪地で茶や名無
したちを呼び、もっと下の集落まで下りてゆく。三角ドームが
はっきりと見えるところに車を停め、暫く山頂のあちらこちら
を眺める。
何も見えない。再び岬に車を停める。崖の上でコロがお座り
の姿勢のまま待っていてくれた。歩道の縁石に座りコロのお相
手をする。風が出てきた。夕暮れの海に小さな波が無数に走り
始める。手を甘咬みしていたコロが起きあがったのを潮に車に
乗り込み、岬を後にする。
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帰路再び立ち寄った貯木場では六頭の海の野生児たちが揃っ
ていた。クロと幸が鼻をきゅんきゅんならしながら寄ってくる。
相変わらず右手と左手で交互にお手をしながらクロが顔を舐め、
洋服の匂いを嗅ぎ、幸は少し離れたところで尻尾を激しく振っ
ている。
横にいたカシラがクロを押しのけるようにして膝の間に割り
込んでくる。五郎もぴったりと身体をくっつける。シロはぼり
ぼりとドライフードをかじっている。
暗闇が辺りをすっぽりと包み込み、足下から寒さが襲ってく
る。哀しみがこみ上げてきた・・・・・
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