セイタカアワダチソウ



10月24日
 海岸公園は満潮を迎えていた。二つの川に挟まれた、晴れた 
日には遠く小豆島を望むことの出来る幅二十メートル、東西五
百メートルほどの細長い公園は、水銀灯と星の輝きの中でひっ
そりと夜の闇にとけ込んでいた。

 頬に微かに当たる風が冷たく、いつもは鏡のように波一つな
い海面が小さく揺れている。

 ベンジャミンは雑草の中に入って行き、蘭ちゃんは忙しく遊
歩道を走り抜けている。殆ど手入れされていない遊歩道沿いの
花壇に、雑草が何本も何本も数え切れないぐらい生い茂ってい
る。

 五色台の野生児たちが遊んだ山頂の駐車場沿いの原っぱに生
えていたものと同じ草が・・・・・二メートルを超えるものか
ら一メートルぐらいの背丈のものまで、黄色い可憐な花をつけ
たセイタカアワダチソウである。

 去年の今頃は、まだ何も解っていなかった。太郎や胡桃たち
が喜んでくれる顔を見ることだけのために山頂の駐車場に食餌
を運んだ。

 大きな哀しみが津波のように次から次へと押し寄せてくるこ
となど、想像もしていなかった。周囲の景色を見取ることも、
そこにどんな花が咲いているのかを眺めることも、なかった。
 野生児たち一頭一頭の顔を見ること、元気な姿を見ることだ
けで精一杯であった。

 晩秋の訪れと共に、花が消えて行く。色とりどりの景色が灰
色に包まれ、山は紅く染まり、そして色のない季節を迎える。


 身の丈を越えるまでに成長しているセイタカアワダチソウが
山頂の駐車場に群生しているのに気づいたのは、ついこの間の
ことであった。

 そしてその草が、いつもベンジャミンたちと歩く家の裏の散
歩道の広場にも群生していた。そして海岸公園にも・・・・・
広い空で小さく輝く星たちと南の空に低く浮かんだ八日月が、
小さな黄色い花を優しく見守り、語りかけていた。 

 もうすぐ木枯らしが吹き、

    山の木々が冬の歌を唄いはじめる・・・・・

       太郎や胡桃たちが帰ってくる・・・・・

五色台の野生児たちのいのちの刻が帰ってくる・・・・・