海岸公園は満潮を迎えていた。二つの川に挟まれた、晴れた
日には遠く小豆島を望むことの出来る幅二十メートル、東西五
百メートルほどの細長い公園は、水銀灯と星の輝きの中でひっ
そりと夜の闇にとけ込んでいた。
頬に微かに当たる風が冷たく、いつもは鏡のように波一つな
い海面が小さく揺れている。
ベンジャミンは雑草の中に入って行き、蘭ちゃんは忙しく遊
歩道を走り抜けている。殆ど手入れされていない遊歩道沿いの
花壇に、雑草が何本も何本も数え切れないぐらい生い茂ってい
る。
五色台の野生児たちが遊んだ山頂の駐車場沿いの原っぱに生
えていたものと同じ草が・・・・・二メートルを超えるものか
ら一メートルぐらいの背丈のものまで、黄色い可憐な花をつけ
たセイタカアワダチソウである。
去年の今頃は、まだ何も解っていなかった。太郎や胡桃たち
が喜んでくれる顔を見ることだけのために山頂の駐車場に食餌
を運んだ。
大きな哀しみが津波のように次から次へと押し寄せてくるこ
となど、想像もしていなかった。周囲の景色を見取ることも、
そこにどんな花が咲いているのかを眺めることも、なかった。
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野生児たち一頭一頭の顔を見ること、元気な姿を見ることだ
けで精一杯であった。
晩秋の訪れと共に、花が消えて行く。色とりどりの景色が灰
色に包まれ、山は紅く染まり、そして色のない季節を迎える。
身の丈を越えるまでに成長しているセイタカアワダチソウが
山頂の駐車場に群生しているのに気づいたのは、ついこの間の
ことであった。
そしてその草が、いつもベンジャミンたちと歩く家の裏の散
歩道の広場にも群生していた。そして海岸公園にも・・・・・
広い空で小さく輝く星たちと南の空に低く浮かんだ八日月が、
小さな黄色い花を優しく見守り、語りかけていた。
もうすぐ木枯らしが吹き、
山の木々が冬の歌を唄いはじめる・・・・・
太郎や胡桃たちが帰ってくる・・・・・
五色台の野生児たちのいのちの刻が帰ってくる・・・・・
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