およそ家庭犬というか、飼い犬として育てられている場合、 雌雄で飼われていることは極く稀であり、例え多頭飼育の場合 でも系統だった家族構成の中で飼育されるということは極めて 稀なことであろう。 ところが野良の場合、先ず一頭だけで生活しているというこ とはなく、大抵の場合が集団、それも四、五頭の集団を形成し ているのが常のようである。勿論、体格の良い雄が集団を統制 し、次に配偶者である雌そしてその子供たちとその他の雄或い は雌という順位を構成しながら秩序を保っている。 極く稀にこの集団に雌が受け入れられることもあるようでは あるが、大抵の場合一度構成された集団に外部から侵入し、そ の構成員となることは不可能のようである。 ただ前述のように、雌或いは病弱というか体格・性格の劣る 雄の場合、時として混入を認められることがあるようである。 |
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五色台の野生児たちのように、純然たる一血族で構成されて いた集団というのも珍しいケースの内に挙げられるであろう。 野良ということから、その集団の形成は最初からの血族的結 合体という構成は望むべくもなく、むしろ雑多な犬種により構 成されるのが一般的なことであろう。 その構成要素はやはり雄を中心とした狼と同様の順位によっ て決められている。 また仔犬の誕生ということも常時起こることではあるが、こ の仔犬たちの飼育は、これまた狼の習性と同様雌雄の夫婦によ って協力的に行われている。 |
父親は産室を離れることができない母親のために食餌を運ぶ ことを始め、家族を外敵から守ることなど、雄に課せられた義 務を粛々と果たし、母親は子育てに専念、ある程度仔犬たちが 大きくなってくると、闘争方法、採餌の方法など、生存するた めのありとあらゆることを仔犬たちに教える。 また母親であるという義務感でもあろう、食餌を精一杯採る ことも、子育ての時期の特徴として挙げられる。 つまり、普段は雄の父親の下位に位置している母親が、授乳 のための栄養を必要としている時期に於いては、例え上位に位 置する雄の食餌でも、横から奪い取るということが起こり、父 親である雄もこれに抵抗することがないのである。 |
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生後二ヶ月ぐらいに仔犬たちが成長してくると、母親も父親 に従って産室をしばしば離れるようになり、仔犬たちは自分た ちだけで身を守ること、外敵などから逃げることを覚え始める。 この頃から父親と仔犬たちとの交流が頻繁に始まる。と同時 に構成員である他の雄などともじゃれあうという光景が見られ るようになる。 夫婦による子育てという形に、構成員の雄或いは雌が協力す るということが、野良というか野生児たちの一番の特徴でもあ るようである。 全く狼の習性そのままの形が野生児たちには極く普通のこと として存在しているのである。 このことは五色台の野生児たちの太郎を中心とした胡桃・権兵 衛そして五頭の子供たちの集団、そしてコロを中心とした茶・ 名無し・死亡した一頭を含めた四頭の子供たちの集団にも顕著 に現れていたのである。 |