家庭犬と野良の性格 二



家族構成
 およそ家庭犬というか、飼い犬として育てられている場合、 
雌雄で飼われていることは極く稀であり、例え多頭飼育の場合
でも系統だった家族構成の中で飼育されるということは極めて
稀なことであろう。

 ところが野良の場合、先ず一頭だけで生活しているというこ
とはなく、大抵の場合が集団、それも四、五頭の集団を形成し
ているのが常のようである。勿論、体格の良い雄が集団を統制
し、次に配偶者である雌そしてその子供たちとその他の雄或い
は雌という順位を構成しながら秩序を保っている。

 極く稀にこの集団に雌が受け入れられることもあるようでは
あるが、大抵の場合一度構成された集団に外部から侵入し、そ
の構成員となることは不可能のようである。

 ただ前述のように、雌或いは病弱というか体格・性格の劣る
雄の場合、時として混入を認められることがあるようである。
生後30日目
 五色台の野生児たちのように、純然たる一血族で構成されて
いた集団というのも珍しいケースの内に挙げられるであろう。

 野良ということから、その集団の形成は最初からの血族的結
合体という構成は望むべくもなく、むしろ雑多な犬種により構
成されるのが一般的なことであろう。
 その構成要素はやはり雄を中心とした狼と同様の順位によっ
て決められている。

 また仔犬の誕生ということも常時起こることではあるが、こ
の仔犬たちの飼育は、これまた狼の習性と同様雌雄の夫婦によ
って協力的に行われている。
 父親は産室を離れることができない母親のために食餌を運ぶ
ことを始め、家族を外敵から守ることなど、雄に課せられた義
務を粛々と果たし、母親は子育てに専念、ある程度仔犬たちが
大きくなってくると、闘争方法、採餌の方法など、生存するた
めのありとあらゆることを仔犬たちに教える。


 また母親であるという義務感でもあろう、食餌を精一杯採る
ことも、子育ての時期の特徴として挙げられる。

 つまり、普段は雄の父親の下位に位置している母親が、授乳
のための栄養を必要としている時期に於いては、例え上位に位
置する雄の食餌でも、横から奪い取るということが起こり、父
親である雄もこれに抵抗することがないのである。
父親と遊ぶ子供たち
 生後二ヶ月ぐらいに仔犬たちが成長してくると、母親も父親
に従って産室をしばしば離れるようになり、仔犬たちは自分た
ちだけで身を守ること、外敵などから逃げることを覚え始める。

 この頃から父親と仔犬たちとの交流が頻繁に始まる。と同時
に構成員である他の雄などともじゃれあうという光景が見られ
るようになる。

 夫婦による子育てという形に、構成員の雄或いは雌が協力す
るということが、野良というか野生児たちの一番の特徴でもあ
るようである。

 全く狼の習性そのままの形が野生児たちには極く普通のこと
として存在しているのである。
このことは五色台の野生児たちの太郎を中心とした胡桃・権兵
衛そして五頭の子供たちの集団、そしてコロを中心とした茶・
名無し・死亡した一頭を含めた四頭の子供たちの集団にも顕著
に現れていたのである。