一週間近く続いた雨のため、五色台の野生児たちへの給餌が
予定通りできなかつた。夢の中に、私の左に座りご飯を手から
食べている胡桃くらいの大きさの雑種犬が出てきて目覚める。
太郎たちにも随分逢っていないような気がする。
晴れたり曇ったり、今にも降り出しそうになったりする空を
眺めながら食餌の準備をする。犬缶をパンとドライフードに混
ぜる作業の間中、大五郎とまだ名前もつけていない仔犬が足元
に寄ってきてしきりにおねだり。
結局犬缶二個をぺろりとたいらげる。いつも通りの時間に合
わせて、午後二時四十分出発。
三時半、山頂の駐車場に着く。一台の車も停まっていない。
太郎も権兵衛もさくらも、出迎えてはくれなかった。
雨で流されないようにトイレの裏の軒下に置いていた食餌の
寿司桶は奇麗に空っぽになり、ワン君の足跡が残っていた。
周辺に置いてあった食餌も見事になくなっていた。持参の食
餌を太郎たちへの合図の口笛を吹きながら盛り付け、所定の場
所に運ぶ。
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太郎たちは出てこない。いつもながら一番嫌な展開である。
芝生広場に出てみても、胡桃の旧居に座ってじっと待ってみて
も、太郎も権兵衛も出てきてはくれなかった。当てもなく車に
乗り、十分ほど近くを探してみる。いる筈はない。
もう一度駐車場に登る。急カーブを曲がり、視界の中に雑草
の間から駐車場の先端が入ってきても、いつも跳び跳ねるよう
にして出迎えてくれる野生児たちの姿はなかった。車を止め、
食餌を置いた木立の間を覗いてみる。
太郎が食べていた。十メートルほど離れたマウンドの裾で権
兵衛がこちらを向いて座っていた。温度計が三十度を指してい
る。
窓を開けた途端むっとするような熱い空気が流れ込んでくる。
アスファルトの照り返しで恐らく四十度以上にはなっているの
だろう、頭から汗が吹き出す。
さくらはやはり出てこない。太郎の好物のチーズとビーフの
入った犬缶を急いで開け、トレーに乗せて日陰に置く。元気そ
うであった。何事もなかったかのような優しい眼差しで私の顔
を見ている。権兵衛も暑いのだろう、舌を出して早い呼吸のま
ま私の前で座っていた。
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