日曜日には珍しく午前九時起床。十一時半、五色台山頂の駐
車場到着。時折小雨の降るどんよりと曇った空の下で太郎が出
迎えてくれる。
食餌を寿司桶に移すのも待てないようにピクニックケースに
頭を突っ込んできて飲み込むように食べる。去年の夏もそうだ
ったが、ダニとフィラリアのせいなのであろう、痩せて一回り
小さくなったように見える。
いつもの食餌の上に今日は犬缶を開けてやる。二缶をぺろり
と平らげ、二、三メートル離れたアスファルトの上にお座りを
してこちらを見ている。
目をそらさずじっと見つめあう。鼻筋から額にかけてのカー
ブと小さい二つの目が大五郎そっくりである。そう言えば、尻
尾の振り方も何処となく似ているようである。
権兵衛とさくらは出てこなかった。くちなしの花が満開の駐
車場はいつもの通り訪れる人もなく、食餌を狙っているカラス
の鳴き声以外には風の音もなかった。雨に濡れた樹々の緑が曇
り空の下で時折きらりと光り、太郎と私の音のない会話が続く。
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峠下の窪地では茶・名無し・茶の子供の三頭が尾を振りなが
ら出迎えてくれる。茶の子供は既に母親の体格を凌ぎ、堂々た
る成犬の大きさになっていた。
口の周りが黒い、いわゆるドロボー顔ではあるが、食餌を催
促して吠える声はまだ子供のそれであった。
名無しが私の正面にきて盛んに尻尾を振ってくれ、名前を呼
ばれた茶が、少し首を傾げながら、私のいうことを理解しよう
と目を見つめている。
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元気に食事をしている三頭を後に岬のクロとコロに逢いに行
く。車が止まるのと同時にクロとコロが跳び付いてくる。此処
だけは海から吹上げてくる風でやや涼しさを覚える。
四缶ずつ開けてやった犬缶を食べながら、クロとコロが交代
でご機嫌伺いにくる。クロは鼻をクンクンとならし、コロは独
特のお手のポーズ。
満腹になったクロが崖下の雑草の中を走り回って遊び、御主
人様はあなたとばかり、べったりと横にくっついて手を舐めた
り顔を見つめて傍から離れようとしないコロ!
また時間が止まってしまったかのような錯覚の中に嬉々とし
て落ち込む。コロの耳に付いていた大きなダニを取り、頭を撫
で、口を両手で抑えこんで左右に振りながら遊ぶ。
口を開けて咬む仕草はするものの、歯が当たることもなく、
最後は参ったとばかりお腹を見せての万歳のポーズ・・・・・
沖合いをパワーボートが疾走し、低くこもったエンジン音が
山に当たり返ってくる。
龍神が住むと言われるおむすび型をした大槌・小槌の小さな
二つの島の間を九州行きの大型フェリーが通り抜け、白い航跡
だけが波間に漂っていた。
小さなたった一刻の安らぎと楽しさを後に、クロたちに別れ
を告げる。夏の空の下で二頭がお座りの姿勢のまま見送ってく
れる。
またくる・・・元気で・・・
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