冷たく肌を射すような風が吹きすさび、木立の間からは悲鳴
にも似た木枯らしの合唱が、休む間もなく津波のように押し寄
せてくる。
アッと言う間に通り過ぎて行こうとしている一九九三年!
悲しみに明け、哀しみに暮れた一年でもあった。通りすがりの
景色のように儚く消えていった数多くの不幸な境遇の犬たちを
想い、その犬たちに贈るレクイエムも、今は哀しみの中に深く
沈み込んでいる。
消えていった犬たちは、いつも同じ目を持っていた。優しく、
哀しくそして縋りつくような澄み切った深い色の目であった。
登山道路の途中で出会った黒と甲斐! ちぎれんばかりに尾
を振り、与えられた犬缶を貪り、じっと座って去って行く車を
見送ってくれた二頭!
大きな白い身体を小さく丸めながら一度に缶詰を八個も食べ
てまだ空腹を訴えた白!
茂みの中から不意に跳び出してきて、両前肢で私の脚を抱え
込み大きな丸い目を思い切り見開いて見つめていた宇宙人!
膝の間に座り、まるで母親の胎内で眠っているかのように目
を閉じて身体を預けてきたちび黒!
どの子供たちも暖かい体温を私の手の中に残したまま、五色
台の三角ゾーンの入り口で忽然と消えてしまった。自分の生い
立ちを語ってくれる暇も、人間との交わりの中で得られるであ
ろう信頼と愛情を再び取り返すだけの時間も与えられないまま、
彼らは私の視界から跡形もなく消えてしまった。
どの子供たちもそうであった。誰も、一言の恨み言も言わな
かった。哀しく優しい眼差しで尾を振ってくれただけであった。
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どれほど彼ら犬族のことを学んでも、どれほど沢山の食餌を
トランクに詰めていても、彼らを救うことはできなかった。学
べば学ぶほど、触れ合えば触れ合うほど、より大きな壁が眼前
に立ちはだかり、自らの小ささを教えられるだけの一年でもあ
った。
助けられた子供たちは僅かに一握りである。立ちはだかる巨
岩に、例え蟻の一穴でも開けることができれば、恨み言の一つ
を言うこともない彼ら野生児たちから一言の苦言でも聞くこと
ができれば、そう想い続けてきた一年の歳月が後ろに消えて行
こうとしている。
哀しみの一ページを書き加えなければならない。
山と山が寄り添い、重なり、そして連なった五色台!
変わることのない優しさと厳しさを内に秘め泰然と佇んでい
る五色台、その一角を占める野生児たちの三角ゾーン!
松と蜜柑の木に守られた五色台の三角地帯に音もなく消えて
いったもの言わぬ友人たち!
私に彼らを支える力はない、知恵もない。ただ哀しむことし
かできない。季節が周り、風が走り去る。消えていった子供た
ちの姿は消えない・・・・・
冷たい空の下でなだらかな曲線を描く五色台の稜線から、ち
ぎれた雲が流れてくる。
その一つ一つの雲の中に、子供たちの顔が見える・・・・・
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