今日で四日目になる登山口に捨てられていた母子の給餌、今
にも泣き出しそうな空の色に急かされるようにして出発。気温
十三度、母子共々元気でいてくれることを祈りながらの三十分
のドライブは、結構長く感じられる
三月三日のひな祭りの日に出会った母犬にどう名前を付ける
か、疲れも手伝ってなかなかいい案が浮かばない。ええいと思
いきって付けた名前が「桃子」。
初代ビーグル犬の「もも」、今部屋の外でしきりにガリガリ
と変な音を立てている二代目の「もも」、出会った日付が桃の
節句、もうこれは三題噺以外の何物でもない・・・
現場では昨日と変わらず、クロ、コロ、茶が大歓迎で迎えて
くれる。崖下からは桃子が精一杯尻尾を振っての歓迎。クロた
ちに犬缶を開けてやり、桃子たちには二階堂家特製の「ぶりの
炊き込みスープ付きご飯!」
新しく用意した食器と一昨日持ってきた食器に給餌、仔犬五
頭が先ずスープをペチョペチョ、母親の桃子も尻尾を振りなが
ら食べてくれる。崖の上ではクロたちがじっと様子を窺ってい
る。
食べ終わった桃子が、犬缶を開けている私の顔をところかま
わずペロペロペロペロ。茅の束を集めてきて新しい寝床を作っ
てやろうと、ちょっとでも住居を離れると、急いでついてくる。
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寝床が完成しても、私の側を離れようとしない。子供たちの
ことも念頭にないようである。
大体三日分の食餌を用意して、茶色の雌の仔犬をバスタオル
にくるんで崖を登り始めたが、桃子が離れない。自分も一緒に
連れて帰って欲しいのだろう。仔犬を気遣ってのことではない
ことが解る。
何とか桃子を崖下に座らせ、帰途につく。でも気になる。深
夜「狸」と遭遇したところでUターン、桃子の様子を観にまた
崖のところへ。そっと崖の上から顔を出すと、車の音で解って
いたのだろう、桃子が座ったまま尻尾を振っていた。
主治医の先生の診察を受け、駆虫剤をもらって桃子の子供の、
まだ名前のない女の子は、私の家から十五分くらい離れた大き
な家に里子として貰われて行った。まだ車の中でわたしの鼻を
かじったときのミルク臭い匂いと柔らかな舌の感触が残ってい
る。
幸せに!!!
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