夜半過ぎから書斎の外が何となく雨を思わせる雰囲気になっ
てきていた。夕方の給餌の時桃子たちの雨の時のことをすっか
り忘れていたことが入浴後沸々と胸の内に湧いてくる。
午前一時過ぎ、大粒の雨の中を五色台に向かって車を走らせ
る。フロントガラスにたたきつけられる雨の音が桃子の悲鳴の
ように聞こえる。真っ暗な闇の中をただ走る。一時五十分、登
山口に到着。崖の上から桃子の様子を観る。
仔犬たちの段ボール箱の横で雨に濡れながらじっと丸まって
いる。用意してきた暖かい牛乳を桃子と仔犬たちに飲ませなが
ら、ゴルフ用の大きな傘を、持ってきた鉄の支柱に縛り付け土
手に差し込む。土が柔らかくて安定しない。
ハンマーで支柱を叩いてみたが五十センチぐらいのところで
止まってしまう。仕方がない、明日また補強することにして桃
子を傘の下の寝床に連れてくる。ぐっしょりと濡れている桃子
の身体をバスタオルで擦るように拭い、新しいバスタオル二枚
でくるんでやる。
おとなしく横になったままじっとしている。傘の左半分に仔
犬たちの段ボール箱、右半分に桃子の寝床。どうにか雨がしの
げることを確認して桃子に別れを告げる。午前三時前であった。
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翌日午後二時、給餌の用意に手間取り、焦りながら出発。雨
がようやくあがり、僅かながら陽光が射し始めた。桃子たちの
住居に着く、大勢の観光客が瀬戸大橋と島々の織りなす冬の瀬
戸内海を楽しんでいた。昨夜のパラソルは風にも飛ばされるこ
ともなく崖の下で陽に映えていた。
仔犬たちのペースト状にした食餌と、いつもの「ぶりの炊き
込みスープ付きご飯」を与え、傘を補強、崖上のクロ・コロ・
茶にも犬缶を与えて胡桃たちのところへ。
四頭の子供を従えた太郎が一番に側に寄ってくる。左手を一、
二回舐めてから、少し離れたところで食餌を待つ。遅れてきた
胡桃が私の顔めがけてジャンプしながら歓迎の挨拶。みんな元
気によく食べてくれる。
大五郎と名付けている雄の子供はもう胡桃と殆ど同じ大きさ
になっている。満腹したのであろう、仔犬たちは太郎にじゃれ
ながら原っぱで遊び始める、胡桃は座り込んだ私の横でじっと
太郎と仔犬たちを見守っていた。
権兵衛がいちばん遅れて食餌をしている。いつもと変わらぬ
家族の風景が在った。この平和な風景がいつまでもいつまでも
続くことはないのだろうか・・・
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