待っているコロ



10月7日 雨
 明け方四時前、半年に一度という大発作に襲われ、凡そ四十 
分間ほどのたうち回る。こうなるとニトロも劇的には効いてく
れない。胸骨上からの心臓マッサージを妻に命じ、高圧酸素の
吸入で何とか逃げ切る。

 午後三時十分、雨足が強まる中を窪地のコロの住居に到着。
二、三度呼ぶと、窪地の横の笹薮からコロがゆっくりと出てく
る。一日中雨の中を私の来訪を待っていたのであろうか・・・

 風邪の熱と発作の後遺症でふらつきながらも何とか持参の料
理を食べさせる。ミンチとカシワの炊き込みご飯に、水分の補
給を考えてスープを多めに作る。

 生肉三百グラムをぺろりと平らげ、スープを一生懸命に飲む。
雨の中での点滴は無理と考えていただけに、自力での水分の摂
取に思わず顔がほころぶ。

 生肉の中には当然クロラムフェニコールとジゴシンの錠剤が
仕込んである。デザートのチーズをごくんと飲み込んで食餌は
終わった。プラスティック桶の中にはまだ三食分以上は残って
いる。

 口を開け口腔粘膜の色を確認、きれいなピンク色である。聴
診器を取り出すと、後ずさりをして逃げようとする。聴診の後
には必ず点滴があるのを学習したのであろう。心音も濁っては
いるが落ちついている。
 鼻も濡れ、目脂も全然付いていない。後肢の麻痺が続いてお
り、前肢もやや不自由さを感じさせる。雨のため横臥させて検
査をすることができない。十分な食欲を確認したので、これ以
上コロに嫌われることをするのをやめる。


 ゆっくりとした足どりでコロが笹薮のなかに入って行く。窪
地からほんの一メートルも入らないところに密生している五十
センチほどの笹の群落の中は、雨もかからず、適度に風も通り、
絶好の住居となっていた。

 コロは既に食餌の後の午睡に入る準備をしている。食餌の桶
を笹薮の中の雨のかからない場所に置いて、暫くコロの様子を
見つめる。ため息をつきながら眠りに入ろうとしていた。

 雨足がだんだん強くなり、濡れた肩や背中が冷たくなるのを
感じ、コロに別れを告げる。

 今日もコロは元気に頑張っていてくれた。明日もきっと元気
な顔を見せてくれるだろう。どうみてもハンサムとはいえない
コロの顔が優しいハンサムな男の子の顔に見える・・・・・

 でも、なぜか哀しい・・・・・