コロ、頑張れ



10月8日 雨
 夜来の雨が上がることもなく激しく降り続いていた。笹の葉
の屋根ではとうてい凌ぐことはできそうにもないほどの雨足で
ある。何度も何度もベッドで起きあがり雨の音を確認する。あ
の病状の上にこれほどの雨がどれほどこたえることであろうか。
どうか雨のしのげる場所に避難していて欲しい。体力を消耗し
ないで頑張って欲しい。刻の経つのがいらいらとするほど遅く
感じられる。


 午後三時十五分、小降りになった雨の中を窪地のコロの住居
に到着。笹の群落の中を探してみる。食餌が残ったままであっ
た。

 両手を口に当てて思いきり大きな声でコロを呼んでみる。雨
の音以外には何も聞こえない。崖を登ってくる音もなかった。
食餌が残っていたのが気にかかる。

 何度も何度も大声でコロを呼ぶ。五十メートルほど先の坂道
を尻尾を左右に振りながら懸命にコロが歩いてくる。昨日気に
なっていた前肢の麻痺症状がコロを走らせないのであろう。

 それでも懸命に私の方に歩いてくるコロ! かなり離れたと
ころで雨を避けていたのであろう。

 一生懸命に歩いてくるコロの方に駆け寄りたいという気持ち
を抑え、両手を広げてしゃがみ込む。頭を下げて腕の中に跳び
込んでくるコロ。
 何処も濡れてはいない。目もしっかりとしている。よかった!
薬入りの生肉をがつがつと食べてくれる。スープを多めに作っ
た炊き込みご飯もしっかり食べてくれる。犬缶にも口を付けて
くれた。

 緩やかな速度ではあるが、病状は快方に向かっているように
見える。でもまだ油断はできない。ほっとした次の瞬間、アッ
という間もなく死んでいったワン君たちのことが胸の中を駆け
めぐる。

 仔犬が一頭コロの周りにまとわりついてきていた。元来た道
へ帰るコロの後をついて行く。崖下の蜜柑畑に六頭の仔犬がい
た。コロの周りにまとわりつく仔犬を、道路に出ないように威
嚇しながら崖を下りて行くコロ。

 大小七つのワン君が五十メートルほど下の草っ原の中を行進
している。やっと四週齢になったばかりであろう仔犬たちのた
めに、犬缶を開け、食餌を用意する。

 崖の上にいる私の方を向いたコロが、仔犬を引き連れて登っ
てきた。仔犬たちは食餌に群がり、コロはまた別の場所へと移
動を始めた。何ができるということもなく仔犬たちの食餌をぼー
っと眺める。いつの間にか陽が射していた。