夜来の雨が上がることもなく激しく降り続いていた。笹の葉
の屋根ではとうてい凌ぐことはできそうにもないほどの雨足で
ある。何度も何度もベッドで起きあがり雨の音を確認する。あ
の病状の上にこれほどの雨がどれほどこたえることであろうか。
どうか雨のしのげる場所に避難していて欲しい。体力を消耗し
ないで頑張って欲しい。刻の経つのがいらいらとするほど遅く
感じられる。
午後三時十五分、小降りになった雨の中を窪地のコロの住居
に到着。笹の群落の中を探してみる。食餌が残ったままであっ
た。
両手を口に当てて思いきり大きな声でコロを呼んでみる。雨
の音以外には何も聞こえない。崖を登ってくる音もなかった。
食餌が残っていたのが気にかかる。
何度も何度も大声でコロを呼ぶ。五十メートルほど先の坂道
を尻尾を左右に振りながら懸命にコロが歩いてくる。昨日気に
なっていた前肢の麻痺症状がコロを走らせないのであろう。
それでも懸命に私の方に歩いてくるコロ! かなり離れたと
ころで雨を避けていたのであろう。
一生懸命に歩いてくるコロの方に駆け寄りたいという気持ち
を抑え、両手を広げてしゃがみ込む。頭を下げて腕の中に跳び
込んでくるコロ。
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何処も濡れてはいない。目もしっかりとしている。よかった!
薬入りの生肉をがつがつと食べてくれる。スープを多めに作っ
た炊き込みご飯もしっかり食べてくれる。犬缶にも口を付けて
くれた。
緩やかな速度ではあるが、病状は快方に向かっているように
見える。でもまだ油断はできない。ほっとした次の瞬間、アッ
という間もなく死んでいったワン君たちのことが胸の中を駆け
めぐる。
仔犬が一頭コロの周りにまとわりついてきていた。元来た道
へ帰るコロの後をついて行く。崖下の蜜柑畑に六頭の仔犬がい
た。コロの周りにまとわりつく仔犬を、道路に出ないように威
嚇しながら崖を下りて行くコロ。
大小七つのワン君が五十メートルほど下の草っ原の中を行進
している。やっと四週齢になったばかりであろう仔犬たちのた
めに、犬缶を開け、食餌を用意する。
崖の上にいる私の方を向いたコロが、仔犬を引き連れて登っ
てきた。仔犬たちは食餌に群がり、コロはまた別の場所へと移
動を始めた。何ができるということもなく仔犬たちの食餌をぼー
っと眺める。いつの間にか陽が射していた。
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