またいつか何処かで・・・



3月30日
 太郎と胡桃の子供たち四頭は愛護団体の人々の協力で一時避  
難の場所を与えられ、里親探しの新しい生活に入っている。

 五色台の野生児たちへの給餌の帰りに顔を見せる私に対する
反応も日毎にものすごい勢いで慣れ親しんできているようであ
る。もっとも、まだまだ里親に出すには野生味が強すぎるよう
であり、今暫くは避難施設での人間社会への対応を学ばなけれ
ばならないようであった。

 とは言え、母親の胡桃にそっくりの女の子は、既に里親も決
まり、後は私が新幹線に乗せて連れて行く暇ができるのを待っ
ているだけであり、残る三頭も、そう遠くない将来優しい里親
の元へ貰われて行くことであろう

 大五郎だけは何としても私の元に置いておきたいというかな
り個人的な嗜好のせいで、目下わが家では、大政所と大御所の
虚々実々の駆け引きが日々行われてはいるのだが、現下の情勢
はどうも大御所やや不利のようである。

 何れにせよ、太郎と胡桃の分身たちはすくすくと育ち、新し
い旅立ちの日をじっと待っているのである。

 さて、五色台に残された太郎、権兵衛たちは、保護作戦を敢
行した先週以来給餌の時もその姿を見せてくれないままである。
住居近くに残されている寿司桶がいかにも寂しそうであった。

 丁度発情期と重なっているため、雄二頭の所在を掴むのはか
なり困難なことではあろうが、必ず住居に帰ってくるものと信
じて、給餌だけは欠かさず続けている。
 また、別の場所に棲息しているコロ、クロ、茶そして名無し
の四頭の成犬と、どうもコロと茶の間にできたらしい仔犬たち
三頭も、何事もなくその生息地周辺で過ごしていたようであっ
た。

 しかし昨日の給餌の時、仔犬一頭が道端で轢死体となって横
たわっているのを見つける。

 三カ所での給餌と、大五郎たちの面会を終わり、深夜十時か
ら、仔犬の死体を収容し、瀬戸大橋のよく見える、兄弟たちが
いつも日向ぼっこをしていた土手に穴を掘り、蓋を開けた缶詰
を右脇に、予備の缶詰を左脇に抱えさせ、「またいつか何処か
で一緒に遊ぼう・・・」と言いながら土に帰した。

 山上の胡桃たちを主人公にした「五色台の野生児たち・第一
話」は、どうにか大団円に向かっているものの、山裾に生息し
ているコロたちの将来はまだまだ不確定の要素が多く、このコ
ロたちをどうやって幸せの中に連れて行ってやるか!

 一人の力のない人間の為すことと言えばおよそ想像もつくこ
とではあろうが、出逢いを縁(えにし)として、例え目的には
ほど遠い結果であろうとも、第二話を完結に向かわせるべく更
に虚しく哀しい努力を続けたいと・・・今日もそして今夜も車
を五色台へと走らせている。