太郎と胡桃の子供たち四頭は愛護団体の人々の協力で一時避
難の場所を与えられ、里親探しの新しい生活に入っている。
五色台の野生児たちへの給餌の帰りに顔を見せる私に対する
反応も日毎にものすごい勢いで慣れ親しんできているようであ
る。もっとも、まだまだ里親に出すには野生味が強すぎるよう
であり、今暫くは避難施設での人間社会への対応を学ばなけれ
ばならないようであった。
とは言え、母親の胡桃にそっくりの女の子は、既に里親も決
まり、後は私が新幹線に乗せて連れて行く暇ができるのを待っ
ているだけであり、残る三頭も、そう遠くない将来優しい里親
の元へ貰われて行くことであろう
大五郎だけは何としても私の元に置いておきたいというかな
り個人的な嗜好のせいで、目下わが家では、大政所と大御所の
虚々実々の駆け引きが日々行われてはいるのだが、現下の情勢
はどうも大御所やや不利のようである。
何れにせよ、太郎と胡桃の分身たちはすくすくと育ち、新し
い旅立ちの日をじっと待っているのである。
さて、五色台に残された太郎、権兵衛たちは、保護作戦を敢
行した先週以来給餌の時もその姿を見せてくれないままである。
住居近くに残されている寿司桶がいかにも寂しそうであった。
丁度発情期と重なっているため、雄二頭の所在を掴むのはか
なり困難なことではあろうが、必ず住居に帰ってくるものと信
じて、給餌だけは欠かさず続けている。
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また、別の場所に棲息しているコロ、クロ、茶そして名無し
の四頭の成犬と、どうもコロと茶の間にできたらしい仔犬たち
三頭も、何事もなくその生息地周辺で過ごしていたようであっ
た。
しかし昨日の給餌の時、仔犬一頭が道端で轢死体となって横
たわっているのを見つける。
三カ所での給餌と、大五郎たちの面会を終わり、深夜十時か
ら、仔犬の死体を収容し、瀬戸大橋のよく見える、兄弟たちが
いつも日向ぼっこをしていた土手に穴を掘り、蓋を開けた缶詰
を右脇に、予備の缶詰を左脇に抱えさせ、「またいつか何処か
で一緒に遊ぼう・・・」と言いながら土に帰した。
山上の胡桃たちを主人公にした「五色台の野生児たち・第一
話」は、どうにか大団円に向かっているものの、山裾に生息し
ているコロたちの将来はまだまだ不確定の要素が多く、このコ
ロたちをどうやって幸せの中に連れて行ってやるか!
一人の力のない人間の為すことと言えばおよそ想像もつくこ
とではあろうが、出逢いを縁(えにし)として、例え目的には
ほど遠い結果であろうとも、第二話を完結に向かわせるべく更
に虚しく哀しい努力を続けたいと・・・今日もそして今夜も車
を五色台へと走らせている。
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