空の寿司桶に食パンとドライフード、スチロールの大皿にビー
フとチーズのコンビ缶を開け、またすれ違いに終わった太郎の
住居を後に峠下の窪地に。
フロントガラス越しに二頭の野生児が、まるで死んでいるか
のように地面に伸びているのを見る。一瞬本当に死んでいるの
かと思う。
車を降りてトランクを開ける時には、茶と名無しがすぐ傍に
きていた。パンの好きな茶と名無しである。茶のお腹が少し膨
らんでいるようであった。多分子供がいるのであろう。
岬の上を涼しい風が吹き抜けていた。犬缶を開けるのを待て
ないコロと、お行儀よく待っているクロ。
二頭とも嬉しそうに食べてくれる。ドライフードには口もつ
けてくれない。昨夜から胸に張っていたニトロをやっと剥がす。
岬の風が吹き出していた汗を乾かしてくれる。
奇麗に刈り取られた道端の雑草の匂いが潮の匂いと共に空高
く舞い上がっていっていた。
*****
午後六時過ぎ、久方振りに赤い靴を履いた蘭ちゃんと、夏は
大の苦手のベンジャミンを連れて自転車で海岸公園に向かう。
口の周りを唾液でべとべとにしながらベンジャミンが目尻を
垂らして走り、その後を蘭ちゃんが鼻を地面に擦りつけながら
追いかける。
自転車の前篭の水筒がジャンプし、額から背中まで汗が流れ
る。夕凪であろう、水面は鏡のようであった。
|
時折十センチくらいの小魚の大軍が細波を立てながら右に左
に水中を泳ぎ、水鳥が海面すれすれを飛び交っている。水筒の
水を喉を鳴らしながら飲んだ蘭ちゃんとベンジャミンが草むら
に駆け込む。
ぶらぶらと歩きながら二頭の後をついて行く。黄金色の夕陽
がビルの谷間に落ち、白い夾竹桃の花が夕闇の中に包まれていっ
た。
*****
玉砂利を敷き詰めた狭い庭のデッキチェアーに座り二階堂軍
団の子供たちの夜の運動会を見守る。誰も遊ぼうとも走ろうと
もしない!
椅子の周りにそれぞれ陣取り、じっと顔を見つめている。肘
掛けにやっと手が届くようになったはち君が、鼻を鳴らしなが
らお相手を催促。
その様子を見ていたちびが、そうはさせじと膝により掛かっ
て他を威圧。そのちびの背中に前肢を懸けた大五郎が耳をねか
せて何とか擦り寄ろうともがく。
勿論背中からはももちゃんと玲ちゃんがしっかりと隙を狙う。
無理矢理膝に跳び乗ってきたももちゃんの勝利であった。
大五郎が少しばかりすねた様子で上目使いに見つめながら次
のチャンスを伺い、ちびちゃんははち君を鼻先で転がして遊ん
でいた。
家の中では、クーラーの下の長椅子でお腹を上にした蘭ちゃ
んが半分目を開けたまま眠り、花火の音の嫌いなしろちゃんが
書斎の椅子の下に避難して眠っている。蒸し暑い夏の一日が終
わろうとしていた。
|