午後五時、岬の駐車場に着く。クロが山側の広場で座ってい
た。トランクを開け大急ぎで食餌の用意をする。微かに尻尾を
振って出迎えてくれたクロちゃん、やはり何処か元気がないし、
反応も鈍い。
ただ、もう死んでいるかも知れないと半ば諦めていただけに、
何とか頑張って欲しいと言う想いが強くなる。缶詰を開けてい
る間にコロが横に来てしきりに愛嬌を振りまいていた。
軽く茹であげた牛肉を二つのトレーに移し、缶詰を二缶ずつ
足す。クロの肉の中には抗生物質を仕込む。コロの食欲は、こ
れがついこのあいだまで生死の間をさまよっていたワンちゃん
とは思えないほどすさまじいばかりの食べ方である。
クロはやはり食欲がかなり落ちている。僅かに牛肉を口に運
んでくれただけである。薬を中に入れた肉片はそのままトレー
の中にあった。何度か捕まえようとしても、鼻先までは手が届
くものの、それ以上近づいてはくれない。
岬のおじいさんの家を訪ね、クロとコロの食糧を預ける。玄
関に出てきたおじいさんが、コロの容態が悪く、もう死ぬかも
知れないと告げる。先々週からの治療を説明し、コロはもう絶
対に大丈夫、むしろクロの容態の方が気がかりである旨を伝え
る。
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クロ用に特別の食糧を別に預け、とにかく食べさせて貰うよ
うにお願いをする。相変わらずクロは座ったまま顔を見ている
だけである。呼びかけると、顔はこちらに向けるのだが、いつ
ものように尻尾を振ってはくれない。
甘えてじゃれついてくる大きなコロのお相手を暫くつとめ、
窪地の茶たちの所へ向かう。崖下の食糧は手つかずのままであ
った。
口笛の合図を送ってみても、何の反応も返ってこない。二、
三日前に仔犬を連れた茶の姿を見たという情報はあるのだが、
この目で茶たちの姿を見るまでは安心できない。
太陽が沈んだ窪地には、足下からの寒さだけが残っていた。
気温十四度、曇り、微風。
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