雲と星と仲間たち



1月7日
 ベンジャミンと蘭の散歩から帰るともう九時を回っていた。 
風がないためかあまり冷たさを感じなかった。暖房の効いた部
屋で缶詰を開け海の野生児たちの食餌の準備を始める。

 元気でいるだろうか? 全員無事であろうか? 直線距離に
してわずか一キロ足らずの貯木場の仲間たちのことが気に掛か
る。

 金曜日の夜とはいえ、午後九時半を過ぎると車の量はぐんと
減る。エンジンが温もるのも待てないように車庫を飛び出し貯
木場へと向かう。雲が出てきたせいもあるのだろう、いつもよ
り暗く感じる埋め立て地の道路をスピードを上げて走る。

 岸壁近くの野生児たちの住居近くに車を停め、石積みのある
広場をヘッドライトで照らす。大きな石が、広場一面に置かれ
ていた。野生児たちの住居がなくなっていた。

 不安を打ち消すように口笛を数回吹く。反対側の鉄骨置き場
の陰から、カシラ、オフクロ、幸、シロと続いて出てくる。

 ビニールシートの上に食餌を用意し始めると、五郎も身体を
九の字に曲げながら近づいてきた。クロがいない!

 何度口笛を吹いてもクロの姿がない。

 遅い食餌をしている野生児たちを置いて周辺を探してみる。
二百メートルほど北の、もともと五郎たちがいた税関横の資材
置き場の物陰にクロがいた。
 身体を擦り寄せ、右前肢と左前肢を交互に出して歓迎の握手
である。ちょっと油断をすると、ぺろりと顔を舐めてくれる。
急いで車に戻り、きれいに並べた食餌の半分をケースに戻す。


 税関横の資材置き場に戻りクロの食餌を用意する。尻尾を盛
んに振りながらクロが食餌をするのを眺めていると、何とカシ
ラを先頭に五郎、シロ、オフクロ、幸たちが暗闇の中を白い息
を吐きながら走ってきていた。

 六頭の仲間たちが入れ替わり立ち替わり、各々の仕草で歓迎
の挨拶をしてくれる。カシラまでもが顔を舐め始める。勿論五
郎はクンクンという甘えた声を出しながら顔中を温かい舌で拭
ってくれる。

 シロはお腹をパンパンに張らして草の上にちょこんと座り五
郎と遊びたいという目つきで睨んでいる。

 薄雲が掛かった冷たい冬の空で、小さな星たちが一人と六頭
の小さな幸せを瞬きながら懸命に照らしていた。気温四度、元
気な六頭に別れを告げる。