ベンジャミンと蘭の散歩から帰るともう九時を回っていた。
風がないためかあまり冷たさを感じなかった。暖房の効いた部
屋で缶詰を開け海の野生児たちの食餌の準備を始める。
元気でいるだろうか? 全員無事であろうか? 直線距離に
してわずか一キロ足らずの貯木場の仲間たちのことが気に掛か
る。
金曜日の夜とはいえ、午後九時半を過ぎると車の量はぐんと
減る。エンジンが温もるのも待てないように車庫を飛び出し貯
木場へと向かう。雲が出てきたせいもあるのだろう、いつもよ
り暗く感じる埋め立て地の道路をスピードを上げて走る。
岸壁近くの野生児たちの住居近くに車を停め、石積みのある
広場をヘッドライトで照らす。大きな石が、広場一面に置かれ
ていた。野生児たちの住居がなくなっていた。
不安を打ち消すように口笛を数回吹く。反対側の鉄骨置き場
の陰から、カシラ、オフクロ、幸、シロと続いて出てくる。
ビニールシートの上に食餌を用意し始めると、五郎も身体を
九の字に曲げながら近づいてきた。クロがいない!
何度口笛を吹いてもクロの姿がない。
遅い食餌をしている野生児たちを置いて周辺を探してみる。
二百メートルほど北の、もともと五郎たちがいた税関横の資材
置き場の物陰にクロがいた。
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身体を擦り寄せ、右前肢と左前肢を交互に出して歓迎の握手
である。ちょっと油断をすると、ぺろりと顔を舐めてくれる。
急いで車に戻り、きれいに並べた食餌の半分をケースに戻す。
税関横の資材置き場に戻りクロの食餌を用意する。尻尾を盛
んに振りながらクロが食餌をするのを眺めていると、何とカシ
ラを先頭に五郎、シロ、オフクロ、幸たちが暗闇の中を白い息
を吐きながら走ってきていた。
六頭の仲間たちが入れ替わり立ち替わり、各々の仕草で歓迎
の挨拶をしてくれる。カシラまでもが顔を舐め始める。勿論五
郎はクンクンという甘えた声を出しながら顔中を温かい舌で拭
ってくれる。
シロはお腹をパンパンに張らして草の上にちょこんと座り五
郎と遊びたいという目つきで睨んでいる。
薄雲が掛かった冷たい冬の空で、小さな星たちが一人と六頭
の小さな幸せを瞬きながら懸命に照らしていた。気温四度、元
気な六頭に別れを告げる。
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