木枯らしの唄



12月11日
 風が強い。足下から冷たさが這い上がってくる。木枯らしの
唄が始まった。誕生日を明日に控えた大五郎は肉も付き精悍さ
も失わず、五色台の野生児太郎と胡桃の特徴をそのまま引き継
いで優しい目つきのまま、狭い庭の中ではちとちびを遊び相手
に駆け回っている。

 既に自分の体長体高を遥かに越えてしまったはちの耳を舐め
てやったり、母親役のちびの脚を狙って甘えた攻撃を仕掛けた
りして一日を過ごしている。

 時折庭に出る私には、甘えた鼻声を出しながら手首をくわえ
関心を引こうと懸命の努力をする。一番の甘えん坊「はち」が
絶えずジャンピングキスを繰り返し、気の強い「ちび」が最上
席を狙ってうろついている庭の中では、大人しい「大五郎」と
「もも」がいつも割を喰う。

 そんなときの大五郎は、きちんと前肢を揃えたお座りか伏せ
の姿勢のまま名前を呼ばれるまで待っている。顔を見ると悲鳴
にも似た甘えた声を出すのは母親の胡桃そのままであり、前肢
を揃えたお座りと目線をしっかりと主人に向けた伏せは父親の
太郎譲りのものである。

 五頭の兄弟たちとは毛色も毛並みもまるで違う大五郎ではあ
るが、友人の所へ貰われていった「くまきち」の性質を聞くと
大五郎と全く同じであった。
 五色台での三ヶ月間は仔犬たちのリーダーとして、旺盛な好
奇心と冒険心とで満たされていた大五郎も、庭の中での生活に
変わってからは、上位者である私にすっかり依存してしまい甘
えん坊で引っ込み思案の女の子のような優しい性格になってい
るようである。

 時折五色台の野生児たちに持っていく犬缶を開けてやると、
嬉しそうにパクつく。「犬缶とドライフード」「炊き込みご飯」
が主食の五色台での三ヶ月間がしっかりと記憶の中に残ってい
るのであろう。

 木枯らしを子守歌に、舞落ちる白い雪を玩具として枯れ草の
上で遊び、倒木の下の穴蔵をねぐらに、父親と母親そしておじ
さんの権兵衛とに見守られ育ってきた大五郎も、明日満一歳齢
の誕生日を迎える。

 遂に父親の太郎、母親の胡桃、おじさんの権兵衛たちに立派
に成長した姿を見せる夢は果たせなかったものの、星空の何処
かで、優しく逞しくそして静かに育った大五郎のことを、あの
いつもの優しい眼差しで見つめてくれているに違いない。

  五色台の野生児・大五郎  あと一日で満一歳齢

  この日木枯らしが唄い始める