風が強い。足下から冷たさが這い上がってくる。木枯らしの
唄が始まった。誕生日を明日に控えた大五郎は肉も付き精悍さ
も失わず、五色台の野生児太郎と胡桃の特徴をそのまま引き継
いで優しい目つきのまま、狭い庭の中ではちとちびを遊び相手
に駆け回っている。
既に自分の体長体高を遥かに越えてしまったはちの耳を舐め
てやったり、母親役のちびの脚を狙って甘えた攻撃を仕掛けた
りして一日を過ごしている。
時折庭に出る私には、甘えた鼻声を出しながら手首をくわえ
関心を引こうと懸命の努力をする。一番の甘えん坊「はち」が
絶えずジャンピングキスを繰り返し、気の強い「ちび」が最上
席を狙ってうろついている庭の中では、大人しい「大五郎」と
「もも」がいつも割を喰う。
そんなときの大五郎は、きちんと前肢を揃えたお座りか伏せ
の姿勢のまま名前を呼ばれるまで待っている。顔を見ると悲鳴
にも似た甘えた声を出すのは母親の胡桃そのままであり、前肢
を揃えたお座りと目線をしっかりと主人に向けた伏せは父親の
太郎譲りのものである。
五頭の兄弟たちとは毛色も毛並みもまるで違う大五郎ではあ
るが、友人の所へ貰われていった「くまきち」の性質を聞くと
大五郎と全く同じであった。
|
五色台での三ヶ月間は仔犬たちのリーダーとして、旺盛な好
奇心と冒険心とで満たされていた大五郎も、庭の中での生活に
変わってからは、上位者である私にすっかり依存してしまい甘
えん坊で引っ込み思案の女の子のような優しい性格になってい
るようである。
時折五色台の野生児たちに持っていく犬缶を開けてやると、
嬉しそうにパクつく。「犬缶とドライフード」「炊き込みご飯」
が主食の五色台での三ヶ月間がしっかりと記憶の中に残ってい
るのであろう。
木枯らしを子守歌に、舞落ちる白い雪を玩具として枯れ草の
上で遊び、倒木の下の穴蔵をねぐらに、父親と母親そしておじ
さんの権兵衛とに見守られ育ってきた大五郎も、明日満一歳齢
の誕生日を迎える。
遂に父親の太郎、母親の胡桃、おじさんの権兵衛たちに立派
に成長した姿を見せる夢は果たせなかったものの、星空の何処
かで、優しく逞しくそして静かに育った大五郎のことを、あの
いつもの優しい眼差しで見つめてくれているに違いない。
五色台の野生児・大五郎 あと一日で満一歳齢
この日木枯らしが唄い始める
|