轟々と唸る風の音で目覚める。一時的に冬型の気圧配置にで
もなったのであろうか、妻がセーターを持ってくる。昼過ぎに
なってもまだ風は治まらず、ビュービューと言う音と共に吹き
抜けて行く。
午後三時、岬の駐車場に到着。早速コロが車の横に跳んでく
る。ジャンプをしながらの歓迎の挨拶。今日はとうとう口を舐
めに来る。
食餌の後遊びたいという風情のコロを残して山頂に向かう。
背の高さほどもある雑草が一面に生い茂り、ここだけは風も通
り抜けてはいなかった。外気温計は十三度を示している。
太郎も権兵衛も、誰も出てこない。木の下の食器を取り出し
新しいドライフードで満たす。トイレの裏にも食パンを置く。
芝生広場を一周しながら合図の口笛を吹くのだが、何の返事も
返っては来ない。
自然科学館とは反対の、岬の方の山を探すことにする。二頭
のワンちゃんが岬の山の林の中にいるのが見えた。車を降りて
周辺を探してみる。
ゴロともう一頭、初めての顔であった。二頭とも林の中に入
りどこかへ行く途中であったのだろう。
「ゴロ!ゴロ!」
声に反応して林の中からゴロが道端まで帰ってくる。
トレーにドライフードを移し、ビーフ缶を出した途端、ゴロ
が「ワンワン」と催促の声をあげる。貪るように食べるゴロを、
座り込んで見つめる。
アッと言う間に食餌がなくなる。新しい缶詰とドライフード
を持ってゴロに近づくと、やはりさっと逃げる。
食糧をトレーに移し後ろを振り返る。ゴロが待っていた。パ
ンとドライフードを周辺に置き、ゴロと多分胡桃の血縁であろ
うワンちゃんに別れを告げ山裾の窪地に向かう。
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窪地が視界に入ったとき、コロが一生懸命窪地めざして走っ
ている姿が目に飛び込んでくる。窪地に行けば私がいると思っ
て、岬から走ってきたようであった。
車の横で激しく尻尾を振りながら待っている。何処へ行くと
いう目的もないようであった。崖下の食餌を置いたところまで
コロと共に下りてみる。
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ドライフードもパンも、そのままであった。茶も名無しも子
供たちも、多分病気のため何処か人目に付かないところでひっ
そりとその生を終えたのであろう。
烏の豌豆の咲いていた土手をコロと共に登る。先になり後に
なりコロがちゃんとエスコートしてくれる。息が切れそうになっ
て立ち止まると、足下まで帰ってきて「伏せ」の姿勢のまま、
私が動き始めるまで待っている。
何処か他にコロの目指しているところでもあるのかと思い、
先に行くように促してみても、何処にも行く様子を見せない。
眼下に広がる塩田跡の原っぱを、何か動いているものはいな
いだろうかと探す。茜色に染まった夕焼け雲の下で、生い茂っ
た雑草が風に揺れているだけであった。
車をゆっくりとスタートさせる。サイドミラーにコロが付い
てきている姿が映る。窓を開け左手を出してコロを呼ぶと、ア
スファルトの道に爪が当たるチャキッ、チャキッと言う軽快な
音を響かせながら一生懸命に車を追いかけてくる。
岬までの凡そ二キロをコロは完走した。呼吸の乱れもなく、
岬の縁石に座っている私の足下でお腹をひっくり返して甘えて
いる。
大きな声で呼んだのが聞こえたのであろう、クロが山道を下
りてきてくれる。ほんの少しだけ元気になったのであろうか!
相変わらず食餌は欲しくなさそうであった。
足の間に潜り込んでくるコロをあやしながら、クロの様子を
観察する。左後肢に軽い麻痺が認められ、熱のせいか、小刻み
に震えている。鼻孔付近も乾燥していた。目脂は付いていない。
おじいさんにクロの食糧を預け、暗くなった道を高松に向か
う。
緑色がかった色に濁った海に白馬が走り、頭上ではさながら
真冬のように風が轟々と唸り声をあげていた。コロちゃん、今
日は有り難う・・・・・
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