午後四時、いつも通り五色台の野生児たちへの給餌に出かけ
る。昨夜からの激しい雨も峠を越えたのだろう、霧雨に煙って
瀬戸の島々が海の上に浮いているように見える。
登山道の入り口にはクロとコロが仲良く座っていた。先日の
給餌の時、太郎の右足の様子がおかしかったことが気になって
いたのでクロたちには後で給餌することにして山頂の駐車場を
目指す。
気温が下がっているのか足元が冷たく感じる。外気温十四度、
四月にしてはかなり低い。
料金所を通り、自然科学館の前のヘヤピンカーブを曲がると、
もう太郎、権兵衛、さくらの三頭が車を目指して駆け寄ってき
ているのが目に入る。
太郎の右前脚は少しは良くなっているようであった。さくら
が早く食餌を出せと尻尾を振りながら吠え続ける。太郎は静か
に尻尾を振りながら用意が整うのを待ち、権兵衛は少し離れた
ところで行儀良く私の動作を見守っている。
霧雨のせいであろう、風もなく、時折鳴くカラスの声以外の
物音は何もなかった。つい二週間ぐらい前は紫の躑躅の花が満
開であった。
桜が散り山の色が殆ど若葉色に変わってきたのと共に、薄紅
色とピンクの躑躅の花が、今を盛りと咲き誇っていた。
淡い朱に包まれた駐車場は木枯らしの季節とは、はっきりと違
った色に変わっていた。初めて胡桃たちに逢った小雨の降りし
きる梅雨の季節とも違っていた。
美味しそうに食べてくれる様子を暫く眺め駐車場をあとにする。
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山裾の海岸道路沿いの斜面にいる「茶」「名無し」そして仔
犬たちへの給餌である。海際の土手に埋葬した一頭を除いて三
頭の仔犬たちと茶そして名無しの五頭が何処からともなく駆け
寄ってきて、それぞれに食餌を始める。
三頭の仔犬たちは、大五郎とほぼ同じくらいの大きさに成長
している。推定八キロくらいの体重であろうか。やっとクロと
コロの食餌の順番である。
口笛を一回吹くだけで、斜面から跳んで下りてくる。コロが
しきりに甘える。大きな図体の割にはあまちゃんである。クロ
はおとなしく、しかし決して私から離れないで、じっとお座り
をして歓迎の挨拶をしてくれていた。
およそ三十分、クロとコロとに遊んでもらい帰路につく。午
後六時を回っていた。家ではベンジャミンや蘭たちが散歩を待
っている。大五郎も、ちびも遊んでもらいたくて待っているに
違いない・・玲も、ももたちも・・・
今日は結婚二十五年の記念日である。山の子供たちも全員元
気で無事な姿を見せてくれた。家の子供たちも優しさを一杯に
たたえて毎日を過ごしてくれている。何にも代え難い素晴らし
い贈り物を貰った。
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